第919話 プロジェクトH(2)試してみよう

 陰陽課の隅の応接セットのところに、4人で座った。

「憑依されていた事を実証できるようにするのは急務です。プロジェクトを成功させるために、頑張りましょう」

「ボク達霊能師の言葉じゃなく、機械で、万人にわかるようにしたいんですよねえ」

 僕と直が言うと、神戸さんは力強く頷いた。

「はい!精一杯頑張ります!オレ、陰陽課に移動願いを出し続けてるんですけど、こんな形で関われるなんて感激です!」

 京極さんは、真面目な顔付きで言った。

「私は、自分がこの目で確認できない事を認めるのが気にくわないんで。幽霊って、いるとは言われているし、テレビでは見たけど、身の周りでは見た事無いし。なので、証明したいんですよ」

「是非、よろしくお願いします。一般人が確認できるようにするためのものを開発するのが目的ですから、京極さんが納得できるものを作るのがゴールですね」

「それで早速ですが、さっきのばけたんって何ですかねえ?」

 神戸さんは、うきうきとそれをテーブルの上に置いた。

「お化け探知機と言うんですが、皆、ばけたんと呼びます」

 皆って誰だろう?美保さんみたいな人だろうか。

「これでわかるのか?」

「ずいぶんと小さいんだねえ」

 しげしげと眺めていると、京極さんが身を乗り出して来た。

「どういう仕掛けです?何がわかると?」

「まずは初代のゴーストレーダーから説明しましょう。

 磁場、体抵抗、温度、光の4つのセンサーと時計を組み込んだものがゴーストレーダーでした。これで、霊を探知するんです。

 次はばけたんです。

 何かが起こる時、起こった時、乱数の偏りが見られることに着目して、ゴーストレーダーの開発に使用した解析データで乱数をとったら、通常では考えられない偏りがあったそうです。そこにそうさせる何かがいたからだ、という事になります。それで、ダウンジングの専門家の協力も得て機能をアップさせたものがばけたんです。

 ばけたん霊石改は、ボタンを押すと、搭載されたアンテナが外のノイズを拾ってトリガーとし、疑似乱数発生のプログラムを走らせます。

 ああ、ノイズとは、電磁波、静電気、音圧変化など、探知できるもの全てだそうです。

 これが大まかな、開発者からの説明でした」

 随分と詳しいが、京極さんは納得しなかったようだ。

「もっと詳しく。疑似乱数について具体的に知りたいわ」

 すると神戸さんは笑って頭を掻いた。

「いやあ。ネットに出てたインタビューを覚えただけですよ。詳しくは知りませんし、よくわかりません」

 正直だな。

「まあ、試してみようか」

 それで僕達は、ばけたんを庁舎のあちらこちらで試してみる事にした。

 通常はランプが緑色で、赤色だと霊がいるらしく、青色だと守り神が出現しているそうだ。緑色と赤色の間には黄色、緑色と青色の間には青緑色があり、これはどちらも、注意という事なのか。

 食堂、エレベーターホール、屋上、会議室前は、緑色から青緑色、黄色だった。確かに、霊はいない。

 取調室周辺や留置場の辺り、鑑識課、保管庫では、赤色、黄色、青色と出た。

「赤!?」

 ビビる神戸さんに、

「うん、いるな。凶器を恨めしそうに見てる」

「うわあ、聞きたくなかった!」

 神戸さんは頭を抱え、京極さんは目を凝らしたり眇めたり色々としていたようだった。

 何カ所かで実験をしてみて、陰陽課に戻る。

「概ね当たったな。面白いな」

「でも、痕跡には反応しなかったねえ」

「一部、黄色や青緑色になったけどな」

 それで、4人は揃って考え込んだ。

「それはそうと、その機械は何ていう器械ですか」

 ふと神戸さんに訊かれた。

「憑依痕探知機、かな」

「略してひょうたん。かねえ?」

「ひょうたん?まあ、ううん」

 開発は、始まったばかりだ。




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