第918話 プロジェクトH(1)動き出す情熱

 偉いさんばかりの集まった会議室に、僕と直は呼ばれた。徳川課長は、最初から出席している。

「何だろうな。また、どこかに出張かな」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「この前はこういうので、外務省に出向して出かけたよねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

 2人で首を捻ったが、それらしき情報は入って来ていない。まあ、それほどの極秘事項という事も考えられる。

「まあ、行くか」

「だねえ」

 形ばかり背筋を伸ばし、ネクタイをキュッと整え、ドアをノックする。

 すると中から開けられたので、1歩入って声を張り上げた。

「失礼します。陰陽課、御崎 怜警視です」

「陰陽課、町田 直警視です」

 言いながら室内に集まった偉い幹部達の顔を見たが、緊迫した様子はなかった。

「ああ、悪いね、呼び出して」

 フランクな感じで、警視総監が椅子を勧めた。

「以前、御崎君はレポートで、憑依されたと霊能師以外にもわかる手段が早急に必要だと書いていたね」

 僕達警察官僚は、色々とレポートなどを提出しなければならないのだが、確かに僕は、憑依されたと自称して罪を逃れようとするケースが出るだろうことは確実なので、そのための手段が必要だと提言していた。

「はい。現在は霊能師の証言と、出来得る限りの証拠とで立証しておりますが、やはり必要かと思います」

「うん。

 実は、鑑識課にその機械の開発をしたいという人物がいて、似たような機械も持っているとか」

 おお!

「それと、職員として入庁した中に、工学部出身の者がいる。

 この2人との4人で、そのための機械の開発を進めてもらいたい」

 僕と直は、張り切って敬礼した。

「はっ!すぐに取り掛かります!」

 面白そうでワクワクする!

 僕も直も、今すぐ部屋を出てその2人に会いに行きたくてウズウズしていたのだった。


 部屋を出ると、僕達はウキウキ、わくわくとして、陰陽課で彼らの到着を待った。2人は今日からプロジェクトの為に陰陽課に来るらしい。

 と、若い男がやって来た。

「鑑識課から来ました、神戸航一かんべこういち巡査長ですが」

 僕と直は、立ち上がって迎えた。

「御崎 怜です」

「町田 直ですう。ようこそぉ」

「よろしくお願いいたします!

 あ、ちょっと失礼して」

 ポケットからキーホルダーのようなものを出して、スイッチを押す。

「グリーンかあ」

「それは何かねえ?」

「ああ。これはばけたんです」

 神戸さんの返事に首を捻る僕達だったが、そこにいた美保さんが嬉しそうに立ち上がった。

「ばけたん!!あ!しかも霊石 改だあ!」

「御存知でしたか!?」

「マニアの嗜みだよお!」

 意気投合して瞬時に仲良くなった2人に、部屋中の人間が思った。

 美保が増殖した、と。

「失礼しまあす」

 そんな微妙な空気の中、若い女性の声がした。

「交通管制課システム設計課から来ました京極澄子きょうごくすみこですけど」

「御崎 怜です」

「町田 直ですぅ。ようこそぉ」

「あ、鑑識課の神戸航一です」

「あ、どうも」

「これで、プロジェクトメンバーは揃ったねえ」

「さあ、始めようか」

 それは、壮大な戦いの幕開けだった。




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