第906話 遺影(1)友を呼ぶ

 敬のリクエストで、自家製アイスを皆で作り、食べていた。以前キャンプで作ったのが楽しかったらしい。凛、累、優維ちゃんも大喜びだ。

 食べ終わってちびっ子達3人は昼寝し、敬は本を開いた。

「今度は流しそうめんでもやるか」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「お、いいねえ。夏ならではだよねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「あ、そう言えば、夏ならではで思い出したよ。

 あのね、友達の智也のお姉ちゃんの友達が、ゴールデンウイークに死んじゃったんだって」

 敬が話し出した。

 智也君は幼稚園の頃からの友人だ。

「へえ。まだ中学生かそこらだろ?」

「うん。だと思う。

 それでね、遺影ってあるでしょ。あれ、普通は1人なのに、そこのお母さんが『寂しがるから』って、一番仲良しの、夏になったら一緒に海に行こうって約束してた子との写真を使ったんだって」

 敬が言うのを聞いて、僕は驚いた。

「寂しいだろうからって、よく葬儀屋も止めなかったな」

「縁起でもないよねえ」

「連れて行くとか言うよな」

 兄も驚きを隠せない。

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

 敬は頷いた。

「やっぱりそう言うんだよね。

 何か、葬儀屋さんが言ったらしいけど、聞かなかったんだって。お姉ちゃんの友達のお母さんも、気持ち悪いって言ってたって。

 でもね、やっぱりそのせいか、夏休みに入ってから、夢を見るんだって」

「夢?」

 訊き返すと、敬は少し怖そうな顔をした。

「死んだ友達が『早く行こうよ。夏休みが終わっちゃう』って言うらしいんだけど、だんだん近付いて来るって。それって、遺影に自分の入った写真を使ったせいなんじゃないかって、智也のお姉ちゃんに相談しに来たんだって言ってたよ」

 僕と直は、顔を見合わせた。

「ちょっと、気になるな」

「だよねえ。もしかして、ねえ」

「行ってみるか」

 僕達は、取り敢えず智也君の家に行く事にした。急いだ方がいい。そんな気がする。


 松阪家に行くと、幸い、智也も姉の未散さんもいた。

 僕と直の事は覚えていて、敬からその話を聞いたと言えば、すぐにその友達に連絡して、家に案内してくれた。

「ここか」

 土田家は3階建てで、庭はたくさんの花が植えられていた。

 ドアチャイムを鳴らすとすぐに母親と、日曜日で家にいたらしい父親も出て来た。

「おじさん、おばさん。瑤子は?」

「奥にいるわ。あの」

「陰陽課の御崎と申します」

「同じく町田と申します」

「甥がこちらの弟さんと友人で、それで話を聞きまして」

 土田夫妻は不安そうな顔をしていたが、どこかホッとしたように、頭を下げた。

「ありがとうございます。土田瑤子の父と、家内です。

 夢の話だとは思っても、遺影の事が気になって、どうしたものかと」

「お願いします」

 それで僕達は、瑤子さんを視るために、家に上がった。

 リビングで、目の下に隈を作ってぼんやりとしていた中学生の瑤子さんを視ると、確かに何者かの気配がしっかりとまとわりついていた。



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