第895話 チビッ子編 👻 はじめてのおつかい(2)尾行と難関
ふらふら、よたよたときつねのリュックを揺らしながら、怜が歩いて行く。ちゃんと、道の右側を歩いている。
それを、距離を置いて尾けて行く中学生が1人。
看板、曲がり角、駐車中の車。それらの陰に隠れながらついて行くその行動は、誰が見ても怪しい。それでも通報されないどころか、すれ違う近所の人が微笑んで見送るのは、怜の後を尾けて行くのが司で、この兄弟のブラコンっぷりが有名だからだ。
司はそれどころではない。
怜が猫に目を奪われてよそ見をするたびにハラハラし、車が通りかかる度にドキドキした。
怜は、いつも見ているアニメの主題歌をやや調子っ外れの音程で歌いながら、パン屋を目指していた。
母に、
「大変!明日の朝の食パンがないわ!お兄ちゃんがお腹空いちゃう!」
と言われ、それは一大事だとお使いに出たのだった。
公園の横を通りかかると、いつもは競争率の高いブランコが、珍しく空いていた。
それでも、我慢、我慢と言い聞かせて前を向いて歩く。
第一の難関、クリアだ。
そのまま行くと、四つ角に出る。右に曲がれば、最近毎日見に行っているウサギ小屋がある。小さくてふわふわで耳が長くてとてもかわいい。たんぽぽの葉っぱを網の隙間から入れると、鼻をひくひくさせながら食べるのだ。
しかし、今日は寄り道はできない。
「うさたんは、また明日」
怜は未練を振り切って、道を真っすぐに進んだ。
背後では、司が小さくガッツポーズをし、
「よし!第2の難関もクリアだな」
と小さく呟く。
そして、最凶の難関に差し掛かる。
庭に犬をつないでいる家があるのだが、人が通りかかると、庭の奥から鎖を引きちぎる勢いで走って来て、何事かと思うくらいに吠えたてるのだ。顔も怖いし、犬の大きさが幼児よりも大きい事もあって、近隣の幼児達の恐怖の代名詞となっている。
何か大層な名前がついていたが、皆、「バカ犬」「駄犬」としか呼ばない。
怜は、そろりそろりと、足音をたてないように近付いてみた。
チラリと見るが、犬は走って来ない。
怜は少しホッとしながら、もう1歩足を進めた。
と、靴の下で小石がジャリッと微かな音を立てた。
「あ……」
何かが走って来る音がする。何か?決まっている。あいつだ。地獄の番犬だ!
ウワンワンワンワン!!
「ぎゃああああ!!」
犬が門扉に体当たりして、門扉がガチャンと音を立てて激しく揺れる。
怜は恐怖で動けない。
ついでに涙で前が見えない。
しかしここで気付いた。涙で見えなくなったら、走れる気がする。
「うわあああん!」
怜は泣きながら門の前を走って通り過ぎた。
その後を追いかけながら、司は思い切り冷たい目を殺気と共に犬に向けた。
うわう!?
犬が怯んだ……。
怜は足を止め、涙を拭いた。
最後の難所はこれで通過した。
そして、見えて来たパン屋の扉をほっとした思いで開け――ようとしたら、重くて開かなかった。
「しまった!こんな所に隠れた難関が!」
背後で司が、唇をかんだ。
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