第562話 矜持(1)初冬の商店街にて

 本格的な冬が近付き、歩く人も、コートに身を包むようになって来た。

 少々気は早いが忘年会ののぼりが立つ商店街を、僕と直は歩いていた。事件の調べに出たついでに、相馬の事件の時に殺されたジャーナリストの妹、野際真梨のぎわまりさんの様子を覗こうと思ったのだ。

 何せ、上谷川議員達は野際さんが何か取材内容を残していないかと未だに思っているふしがあるので、証拠が無くて野放し状態と言える今は、心配だった。

「あれぇ?あれ、真梨さんだよねえ?」

 直が、前を歩く男女2人連れを指さす。

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。

「そうだな。それでもう1人は、富永か?」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

 富永は同期の1人で、真っすぐで直情型、正義感の塊のようなやつだ。

「富永も、心配でちょくちょく見に来てたのかな」

 視線を感じたのか、富永は振り返り、それで僕達は近寄って行った。

「どうしたんだ?」

「近くまで来たから、様子を見にねえ」

「そういう富永は?よく来てるのか」

「たまにしか来られないけどな。どうも心配で。相馬の代打だ」

 富永は赤くなってから、真面目な顔で口を開いた。

「まあ、ちょうどいい。

 この2人は同期の御崎と町田です。こいつらは信用しても大丈夫です」

 一緒にいた若い女性、真梨さんが、困ったような顔で頭をちょっと下げた。

「初めまして。野際真梨です」

「御崎 怜です」

「町田 直ですぅ。

 それで、何かあったんですかねえ」

「事件の為にと言って兄のものがほとんど押収されたんですが、私も共有していたパソコンも持って行かれてしまって、まあ、そう使っているわけではなかったとはいえ、住所録も入ってたので、そろそろ年賀状を書くにも困ってしまって……」

「ああ、それは困るなあ」

「押収した捜査員に、言ったんですよね?」

「はい。でも、必要だからって。古いハガキも持って行ったので、本当に困って」

「捜査にっていうのもわかるけど、融通が利かないねえ。どう見ても、ハガキとかは関係ないよねえ」

「なあ。あぶり出しもないだろうに」

「あぶり出し――懐かしい。忍者か」

 想像したらしい富永が吹き出し、咳払いをしてから、続けた。

「それが、ちょっと違うかも知れないんだ」

 僕と直が続きを待っていると、富永は、辺りを見廻し、声を潜めて言った。

「どうも、監視されてるかも知れないって」

 僕は直を見た。直はポケットからアオを出すと、

「アオ、ちょっと頼むねえ」

と言って、アオの返事を聞いてパッと放した。

 晴明に習った眷属との視界の同調は、慣れないと少し扱いづらいが、直は少しずつ練習をして、今ではスムーズにできるようになっている。

「ああ。今はそれらしいのは見当たらないねえ」

「……お前ら、本当に色々な隠し玉があるなあ」

「ははは」

 戻って来たアオの耳を掻いてやって、直はアオをポケットに戻した。

「監視は気のせいなのかしら」

「いや、たまたまかも知れない。

 とにかく、掛け合ってみるよ。せめてパソコンとかスケジュール帳は返してくれるように」

「お願いします」

 僕達は真梨さんを送って行くという富永と別れて、陰陽課に向かった。

「何かまた、面倒臭い予感がするなあ」

「嫌だねえ」

 重い溜め息が、冷たい風に吹かれて行った。





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