第462話 ヤンデレ・ゴースト(2)離れない

 放課後、寄り集まって武藤さん達から話を聞いた。

烏丸紀里子からすまきりこさんね。どうして武藤さんに?」

 直に訊かれ、霊の女は恥ずかしそうにもじもじしながら口を開く。

「田舎から出て来て1人暮らしを始めたんですが、まず、すぐに空き巣に入られたんです。その時武藤さんに親切にしてもらって、とてもホッとしました。

 それからまたすぐに送り付け詐欺にあって、どうしようかとオロオロしてたんですけど、武藤さんに相談して事なきを得ました」

「続けさまに、大変な目に合ったねえ」

「はい。それから次は――」

「え、まだ何かあったの!?」

 皆が驚く。

「入社したばかりなのに会社が倒産して、コンビニでバイトをする羽目になったんですが、そのバイト中お客さんに無茶を言われて困ってたところを、また武藤さんに助けていただいて。

 本当にうれしかったんです。それで、いつの間にか、好きになっていたんです」

「まあ、そんなに助けてもらったら、もう、完璧にナイトよね」

 相馬が言うと、烏丸さんはコクコクと頭が取れそうな勢いで頷いた。

「その後階段から足を踏み外して落ちて死んだんですけどね」

「何て言うか……波乱万丈というか、ついてないというか、大変だったんだね」

 倉阪が気の毒そうに言い、筧はうんうんと頷いた。

「死んだ時は驚きましたけど、ラッキーとも思いましたよ」

 烏丸さんの言葉に、皆、キョトンとする。

「生きてる間は話しかけられなかったのに、これからは、ずっと、ずーっと、一緒にいられると思って」

「……」

 烏丸さんは嬉しそうに笑っているが、他は全員、微妙な顔で沈黙する。

「……武藤さんは、烏丸さんの事は?」

「はあ、交番の区域内での空き巣被害者で、1人暮らしだし、何か危なっかしいし、パトロールは多めにした方が良さそうだな、くらいには注意をしておりました。はい」

 武藤さんは、汗を拭いながら答えた。

 僕達は、誰が言うのか視線で押し付け合いをし、結果、何となく僕が言った。

「烏丸さん」

「はい」

「ずっと、憑いてるんですか」

「ずうううーっと、いつでも、どこでも、何をしていても。うふっ。私が誰よりも、武藤さんの事を知っているんです」

「……霊だけど、それはどうかな。それ、ストーキングですよね」

「違います。愛です」

「いや、ストーカーは皆そう言うから」

「酷いわ。武藤さん、何とか言って」

 気配を強めて怒る烏丸さんだったが、武藤さんは勇気を出した。

「すみません。あの、ちょっと困ります」

「えええ!?どうして!?こんなに愛してるのに!いつも一緒にいたい、全てを知りたい、それは普通の事でしょう!?」

「限度とか、やり方とか、段階とか、ね?」

 真白田がひきつった笑顔で言う。

「24時間ずっと一緒だから、健康状態も皆わかるのよ。敵もわかるから排除できるし」

「だめだ。これ、ヤンデレだ。俺、無理」

 及川が宣言する。

「せめてトイレとオフロはやめてあげて」

「豊川、それでいいのか?」

「だって……武藤さん、どうします?」

 武藤さんに、全員が注目した。

「あの、烏丸さん。残念ながら亡くなってしまったんだし、成仏して、生まれ変わった方がいいと思いますよ」

 武藤さんが言うと、今度は、全員が烏丸さんを見る。

「私はどうなってもいいの。ただ一緒にいられれば、後で地獄に落ちてもいいわ」

「重いわあ」

 ボソリと豊川が言った。

「ええっと、執着して残るのはお勧めできませんが」

「武藤さんが全てに優先するの。一緒にいられるんならどうなっても構わないわ」

 危ない目つきで言い切って、烏丸さんは武藤さんの背中にへばりつく。

 どうしたものか。強制的に祓うか。

「それでも、あなたが不幸になるのは私が困ります。時間を区切りますか。それとも、記念に何かして、それで成仏しますか」

 武藤さんは考えた末に、交渉を始めた。

「……じゃあ、デートしたいです。生きてた時に、できなかったから」

「わかりました。デートしたら、成仏して下さい」

「わかりました」

 武藤さんと烏丸さんは、しっかりと約束する。

「あ、1つ。烏丸さん。取り殺したり生命力を吸い取ったりしそうになったら、即刻祓いますから。いいですね」

「はい」

 こうして、2人は明日の休日にデートをする事になったのだった。



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