第455話 丑の刻参り(2)呪いの木
昼休み、食事もそこそこに4人から事情を訊いた。というか、聞かされた。
「丑の刻参りで有名なスポットがあるって聞いて、見に行こうってなったんだよ」
豊川が話し始めると、直が、ああと言った。
「ワラ人形や釘がたくさん打ち付けてある木があるらしいねえ、神社に」
「そう!ネットにあって。近いし、行ってみようとね」
及川が食後のお茶を啜りながら言うと、塚本が頷き、豊川は
「そういうのって女の子好きだろ。だから下見って言うかな」
と言い、富永は、
「興味もあったからな」
と認める。
「で、4人で行ったと。で?」
呆れたような顔で、筧が促した。
4人は、住宅街にあるその神社にやって来た。
鳥居から真っすぐに伸びる参道の先にある社殿は小さく、左右、裏は、雑木林になっている。
「狭いな」
「暗いし、危なそうだな」
「丑の刻参りしてる最中だったらどうするんだ?」
「丑の刻にするんじゃないか?今は大丈夫だろ」
「丑の刻って何時?午前2時?」
「草木も眠る丑三つ時って言うなあ、2時ごろ」
いい加減な事を小声で言いながら、きょろきょろしながら神社に入って行く。
平気なフリをしているが、1人だと心細い程度にはビビっていた。
離れないようにしながら、雑木林の中に入って、木の幹を眺めて歩く。
懐中電灯の光に驚いたのか、カラスが突然鳴いた時はビクーッとし、そして何事もなかったかのように再び歩き出す。
それを見付けたのは、塚本だった。
「あ」
塚本の懐中電灯の照らす先を見て、皆、絶句した。
大人3人くらいでないと抱えられないほどの太さの木の幹の顔の高さ辺りに、グルリと釘が打ち付けられていたのだ。20や30ではきかない数だ。
「こんなに、丑の刻参りする人がいるのか」
及川が唾を飲み込んだ。
「ワラ人形は外してるんだろうな。
うわっ。ここに残ってるぞ」
向こう側に回って行った豊川が声を上げ、皆でそちらへ回る。
ザ・ワラ人形という感じの人形が、五寸釘で打ち付けられていた。
「……」
「……」
「……生々しいな。スタイリッシュじゃないし」
「……恨みごとがあるなら、堂々と言えばいい」
富永は言うと、皆が見ている前で、人形を掴んで、引っこ抜いた。
「あ!?」
「と、と、富永!?」
「いいのか!?」
無口な塚本でさえ、驚愕のあまり口を開いた。
「こっそり恨むなんて正義じゃない!」
富永はワラ人形を迷った末に木の根元に置いて、
「さ、帰ろうか」
と、言った。
告白に、いつの間にか、辺りの関係ない人間も、聞き耳を立てているようだった。
「それで帰って来たんだけどな。夢で、鬼が出て来たんだよ」
豊川が声を潜めた。
「俺の所にも。よくも邪魔したなって」
及川が言うと、塚本も頷いて、
「俺も同じだ」
と言い、富永が下を向いた。
「オレのところにも、来たんだ」
僕と直は、はああと溜め息をついた。
「丑の刻参りをした当人と、数々の恨みの念が凝って鬼になったのとが憑いてるからな」
「恨みがましい顔で、よくも邪魔をしたなってねえ」
それに、全員がギョッとした。
「2人もいるの!?」
「捨てて来なさいよ!」
「む、無茶言うなよ筧!」
「助けてくれ、頼む!」
4人はテーブルに手をついて頭を下げた。
「肝試しは面白半分で行かない事。やたらと触らない事。いいな?」
4人は物凄い勢いで頭を縦に振った。
「わかった。札が効いてるから放課後でいいよ。神社に行こう」
「ついでにその木も浄化した方がいいかねえ」
「そうだな。ロクな事にならないしな」
4人は口々に礼を言った。
「ありがとう!今度、奢るから!」
「祟り殺されるかと思ったぁ」
「……面白そうだから俺も行くか」
迫田教官が、冷めたお茶をズズッと啜って言った。
「ああ、それから。丑の刻は午前1時から3時。それを4つに割った3つ目だから、丑三つ時は午前2時から2時半の30分な」
僕はついでに言っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます