第439話 心霊特番・沖縄(1)SOS
サケ、ミンチ、ゆで卵、人参を炒め、パン生地で包んでオーブンで焼く。ピロシキは日本では揚げるのが多いが、ロシアや東欧では、焼くのが一般的だ。そして中の具も、家庭によって様々だ。
今日の我が家の昼食は、このサケ入りと、チーズ入り、紅芋のきんとん入りの3種類だ。それに、れんこん、ブロッコリー、パプリカなどの温野菜サラダと、コーヒー。
大きいのはサケ入り、小さいボールがチーズ、小さい三角が紅芋と形を変えているのだが、敬は教えずとも、形と中味の関係に自分で気付いたらしい。
「それが好きか、敬」
褒めると、敬はにこにことしながら、チーズ入りのを齧って中を見せた。
「どれもいいな。サラダも美味い」
「これ持って、どこかに行きたくなるわねえ」
「公園!」
敬が言うのに、
「寒いからな。もう少し温かくなったら、外で食べようか」
と言うと、
「お父さんと、お母さんと、怜と、直君と、康君と、美里ちゃん?」
と確認するように訊く。
「そうだなあ。皆が忙しくなかったらな」
言いながら、早く温かくならないと、僕と直は無理だなと思う。研修が始まるからだ。
同じことを兄も考えていたのか、しみじみとした口調で言った。
「早いものだな。もう、春から社会人か」
「これまで、ありがとう、兄ちゃん」
「ありがと!」
わけがわからないまま敬が真似をして、皆で笑い出す。
と、電話が鳴り出した。僕のスマホだ。
「何だろ――あ、プロデューサーだ。
はい、御崎です」
相手は、心霊特番のプロデューサー、甲田さんだった。今はロケのために沖縄にいる筈だが。
『あ、御崎君!?大変なんだよ!助けて!このままでは、美里様も――!』
いかにも焦った様子の甲田プロデューサーの声に、こっちも真剣になる。
「何があったんですか。手におえない霊ですか」
『現地のユタもおかしくなって、お手上げなんだよ。御崎君と町田君に頼むよ!来てくれ!』
僕はすぐに決めた。
「詳しい事はメールで入れておいて下さい。それと、協会に連絡を。僕は町田に連絡します」
『頼むよ!』
「どうした」
兄が真剣な顔で訊く。
「ロケでトラブルがあったらしいが、詳しい事はわからない。直と、行く事になると思う」
「そうか。気を付けろよ」
「うん」
そしてすぐに直に連絡し、荷物を手早く作った所に、協会から連絡が入った。沖縄に行けという事だった。
「れーんー」
玄関先に来た敬が、グリグリと頭をこすりつけてひっつく。
「仕事に行って来る。お土産買って来るからな」
仕事と聞いて、敬は渋々離れ、大人しく兄に抱かれた。
「うう……いってらっしゃい」
「気を付けて」
「直君や美里ちゃんにもよろしくね」
僕は3人に見送られて、家を出た。
飛行機が空港に着くと、僕と直は急いで到着ロビーへ向かう。荷物は全て手荷物だ。
「ロケの内容までは聞いてないからねえ。何があったんだろうねえ」
「何か、貝塚に行ったらしい」
「貝塚?石器時代の人とかの霊が出たのかねえ?マンモス?」
2人揃って首を傾げる。
「ユタもお手上げらしい」
霊能師は唯一霊に関する仕事をできる国家資格だが、例外がある。沖縄のユタと青森のイタコだ。この2つに関しては、その名前が全国的に有名だった事と地域に今も根付いている事もあり、名前を残す事にしたのだ。そして、霊能師とは別の協力組織として存続し、その人員の把握や育成は各々が行っている。
「ユタって、聞いた事はあるけど、会った事は無いな」
「昔は、健康相談から人生相談まで、なんでもしてたそうだよぉ」
「原始的な巫女みたいなもんかな?」
「ああ、そうかもねえ」
言いながら急ぎ足でロビーに出ると、正面に見知った番組ADが待っていた。
「あ、おはようございます!」
ペコリと頭を下げ、とにかく車へと乗り込む。
「何か、貝塚に行ったとか書いてありましたけど」
「はい。大山貝塚、ユタの修行場だったところです」
「え、貝塚?」
「貝塚です。沖縄随一の心霊スポットになっていて、随分止められたんですけど。
それで、霊能力のある人ほど影響を受けるとかで、霊能師の方がダウンしました。担ぎ込んだ先のユタもダウンしまして、お手上げ状態です」
3人で溜め息をついた。
「要するに、肝試しに行ったようなものかねえ」
「ユタの修行場で、県内随一の心霊スポットか。面倒臭い事になってるなあ」
「よろしくお願いします」
車は、沖縄風の民家の庭に入って行った。
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