第436話 パーティー(1)注文

 鯛の香草パン粉焼きにブロッコリーと人参を添えた物、ひじき、ほうれん草ともやしとしめじのお浸し、じゃがいもとニラの味噌汁。

 鯛は特別小さくもしていないが、骨は完全に取ってある。

「敬のは香草を控えめにしたんだが、大丈夫かな」

 御崎みさき れん、大学4年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「おしゃかな!」

 甥のけいが嬉しそうに鯛にフォークを突き刺して、パクリと口に運ぶ。

「この様子だと、気に入ってるようだぞ」

 兄が目を細める。

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「美味しい?」

「おいしい!」

 冴子姉は、

「おかわり狙われるわよ」

と笑った。

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。

「あのね、今日ね、みしゃとたんにチョコレートもらった!」

 敬が兄に、嬉しそうに報告する。

 兄が「誰の事だ?」と、目を僕と冴子姉に向けて来る。

「美里だよ。バレンタインだから、義理チョコだって」

 兄がチラッと冴子姉に目をやり、

「そうか」

と言う。

「熊しゃん!」

「そうか。ありがとうは言えたか、敬」

「言った!そいから、怜も言った!ご飯のあとで、怜のチョコレートのプリン食べるから、早くね」

「楽しみだな」

「敬。ちゃんと良くかまないとダメだぞ」

「はあい」

 聞き分けよくモグモグとご飯を良く噛んで食べる敬に目を細めながら、僕達も食べる。

「今日、美里が来て、チョコレートくれたんだ。敬には熊の形のかわいいの。いやあ、かわいいとか言って、頭からかじるんだけどな。あはは」

「身も蓋もないけど、そうよねえ。あははは!女の子がよく『うそお、かーわーいーいー』とか言って、バクッといくのもそうよね」

「そうそう」

「あははは!」

 僕と冴子姉は、思わず笑った。

「忙しいんだろうに、わざわざ来てくれたのか?」

 兄が言う。

「今日は休みだったらしいよ。それで、敬に会いたくなったんだって」

「ねえー」

「ねえー」

 敬と冴子姉が、首を傾けて言い合い、笑う。

「ホワイトデーのお返しは、ちゃんとしないとな、怜」

「そうだなあ。今度、値段を確認して来るよ」

「ボクもお礼!熊しゃんの!」

「熊だからなあ。シャケか?」

「シャケ!」

 ケラケラと笑う敬を中心に、楽しく夕食は進んで行った。


 ベルが鳴り出し、2回で電話をとる。

「はい、宅配ピザのピザ大王です」

 電話の向こうは静かで、女性の小さな声がボソボソと言った。

『マルゲリータのMをお願いします』

 注文を書き留めながら、それを調理担当者にも見せると、担当者は調理に入る。

 とは言え、冷凍の商品を出して調理機に入れるだけだが。

 やがてピザが焼け、それを保温用のバッグに入れると、長谷はせはバイクのキーを手に店を出た。

 時刻は午後8時44分。電話から丁度4分だ。

 住宅街の中に、その家はあった。

「あ、やられた」

 舌打ちが出る。住所はまさにここ、そして名前は中森屋。目の前の空き家だ。

 それも、ただの空き家ではない。去年の大晦日に、一人で暮らしていた女性が宅配の配達員を刺殺して自殺したという、曰く付きの家だ。しかも、「出る」とか言って、日付の変わる頃から、時々見物人が探検に来るのだ。

 一応他に該当する家が無いかどうか確認し、肝試しの人間がいない事も確認し、長谷は店に戻った。






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