第412話 黒の陰陽師(2)稀代の大陰陽師
雑霊が消えて空白地帯になっているところがある。そういう報告があったのは、間もなくだった。
行くと、場が妙に乱れている。しかし、肝心の昌成さんは現在休息中らしく、完全に隠形していて影も形も見えないでいた。
祠からそこまで辿ってみる。
「このまま行くと、太平洋に出るなあ」
「アメリカを目指してるのかねえ」
山の中腹に立って、南の方を見る。
と、何か気配が近付いて来た。悪いものではないようだが、それにしては大きい。
「何だ?」
警戒する僕と直の前に、「ザ・陰陽師」といった出で立ちの霊が現れる。
「昌成?いや、それにしては悪鬼王の気配が無いし」
「でも、陰陽師だよねえ?ただのコスプレじゃないよねえ?」
自信を持って答えられない。
するとその霊も僕達を観察していたが、目を細めた。
「不思議な気配だな。真に人か?」
「……そういうあなたは、コスプレ幽霊ですか」
「こす?わからんが……私は陰陽師、安倍晴明。子孫の不手際があったと知らされた故、あの世から舞い戻ったのだが」
「安倍晴明……安倍晴明!?さん!?」
予想を超えたビッグネームだ。
「失礼しました。霊能師の、御崎 怜と申します」
「同じく、町田 直と申します」
彼のいう事が嘘ではないと、わかった。
「知らされたとは、誰にですか」
「わからん。わからんが、そうだとわかったのだよ」
まあ、いいか。あの世にシステムだしな。
「現状を把握しておられますか」
「情けない事に、はっきりとはな」
僕達は晴明に現状を話し、助力を得る事にした。
晴明は全てを聞き終えると、
「なるほどなあ」
と溜め息をついた。
20代初めといった姿だが妙に貫禄がある。かなり長寿だったので、本来ならもっとお爺さんのはずだ。いくら若い外見で現れても、中味はお爺ちゃんなのだ。
そんな失礼な事を考えていたと知っているのかいないのか、晴明はジロリとこちらを見た。
「霊能師というのは、今の世の陰陽師の事か?」
「少し違います。心霊に関する相談を受け付け、解決する者の事で、その中には陰陽系統の者もいれば、仏教関係の者もいるし、色々いますよ」
「ほう。お前達は何かな」
「ああ……我流、かな?」
「だ、ねえ」
僕と直は、顔を見合わせた。言われてみれば、良くわからない。
「怜とやらの方は、何か、不思議な感じがするな。お前は神か?」
色々と取り込んで来たからなあ。
「人ですよ」
「ふむ。まあ、いいだろう」
そして、直に目を向ける。
「ボクは、札を使いましてぇ、直接祓う事はしません」
晴明の目がきらりと光った。
「札か」
直が、「あ」という目を僕に向けて来る。
これは、あれだ。あの流れだ。
「少し、後学の為に見せてもらっても構わないだろうか」
後学って、どれだけこの後もいるつもりなのかとツッコミたいところはがまんして、僕と直は、神妙に頷いたのだった。
この前とは違うパターンだ。大先輩に教えを受ける直を、僕が見ている。
細かい仕様などの違いはあるが、札使いとして、晴明の教えはかなり役に立つようだ。
「簡潔にして正確、的確。うむ。素晴らしい」
「ありがとうございますぅ」
「足止めの術か。こっちは……縛るものか。封印がないな」
「封印を行うには力不足でしてぇ、相棒がやるののサポートに徹する方が合理的だとぉ」
「間違ってはおらんが、直よ。どうしてもお前がしなくてはならない時がくればどうする?」
「それは……」
「やりようだ。お前の札使いとしての能力なら、不可能ではないだろう。一緒に、術を組み上げてみようじゃないか」
「はい!よろしくお願いします!」
何か2人で、もの凄く盛り上がっている。青春ドラマの1シーンのようだ。
「がんばれよ、直」
小声で応援して、僕は、脳の栄養補給のための差し入れを作りに、ソッと席を立った。
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