第372話 隠しヶ淵(1)人体消失
どこへ行ってしまったのですか。私の役目は、あなた様のお世話をする事なのに。
どうしよう。私はどうしたらいいのか……。
そうだ。消えてしまったのなら、もう一度産み出せばいい。少しずつ欠片を集めて、もう一度淵の神様を――。
ようやく残暑も去り、日中は動くと暑いものの、かなり過ごしやすい季節になった。
「秋だなあ」
「今年は珍しく、夏から冬の間に、秋が来たねえ」
「この頃、無かったもんなあ」
「悲しいよねえ」
僕達は言いながら、陰陽課に入った。
「やあ。悪いね、来てもらって」
徳川さんが、立ち上がった。
以前は家で事件の話をする事もあったが、冴子姉がいるので、事件の話はするわけにはいかないのだ。
「いえいえ。また、遊びに来てくださいね」
「ありがとう」
応接テーブルへ移動しながら雑談していると、見た事の無い2人がお茶をお盆に乗せてやって来た。
「紹介するよ。自衛隊から出向して来たばかりの、
2人に今回の事件を担当してもらおうと思ってね」
「咲屋です。よろしくお願いいたします」
30歳前後くらいか。落ち着いて穏やかで知性的なハンサムだ。兄には及ばないが。
「山神と申します。よろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げる若い方は、どうも自信無さ気というか、落ち着きが無いというか……。
「防衛省でも、霊に対抗する手段が必要かと検討中でね。取り敢えずうちに出向というわけ。
山神君は、少し霊感があるらしいとわかったからうちに配属になったんだけど、なんていうか、本人は幽霊とかが大の苦手という怖がりでね。
怜君と直君が来てくれる今回の件なら安心だし、この2人に任せてみようかとね。そういうわけだから、この2人は見学だと思って、頼むね」
徳川さんが、思い切り本音を暴露して笑った。
「あはは。わかりました。
御崎 怜です。よろしくお願いいたします」
「町田 直ですぅ。よろしくお願いいたしますねえ」
「じゃあ、早速だけど」
徳川さんは、数葉の写真を並べた。共通点は、男性。年齢は、大学生くらいもいれば40歳くらいもいる。
「この人達が立て続けに行方不明になってるんだけどね。皆、密室だったり、家族のいる家とかから、突然消えたんだよ。煙のようにね。
いや、幽霊のように、かな」
「ヒイッ」
山神さんは、小さく声を上げて震えあがった。
大丈夫かな、と、僕は少し心配になった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます