第363話 心霊特番・八甲田山(1)指令
暗い中に、テントが設営されている。真ん中にはランプが置かれ、それを、座った皆が囲んでいる。影が陰影をゆらゆらと浮かび上がらせ、ひそめた声とあいまって、不気味だ。
さっきまではバーベキューコンロを囲んで笑っていたが、それとは打って変わって、真剣な表情である。
代表して、高田さんがカメラに向かって喋る。
「現在、午後11時です。辺りには他に誰もいません。
一応テントは、男用、女用と2つ立てましたが、この通り」
カメラが、美里とえりなさんに向く。
「だって、女用のテントには、霊能師がいないじゃないですかあ」
「私は、怖くはないのよ。でも、こういうのって面白そうじゃない。一晩中、星を見たり喋ったり」
またカメラは高田さんに戻る。
「このように主張して、男用テントに居座っています。ついでにスタッフもいるので、もう、すんごい窮屈です」
カメラがグルリとテント内を映す。全員が1つのテントに集まっており、足も伸ばせない。
「怪談をして下さい」
甲田プロデューサーが言い、ミトングローブ左手右手とえりなさんが顔を引きつらせる。
「ああ、それはお勧めできません」
僕がそう言うと、あからさまにホッとした顔をした。
「せいぜい1人で散歩――」
「えええーっ!?」
「お勧めできない所を!?」
「マジでドSか!?」
「でも、番組的にはこう、何か、ねえ」
甲田プロデューサーが言って、決まる。
「銅像前まで言って、自撮り写真を撮って来る事にしましょう」
出演者一同がゲンナリとするのに、優しく、フォローする。
「大丈夫。何か憑いたら、すぐに祓いますから」
「安心できないのはなぜなんだろう」
しかし抵抗虚しく、赤外線カメラと自撮り棒付きのデジカメを持たされて、順番に写真撮影に臨むことになったのだった。
まずは、美里が立候補した。スタスタと銅像まで行き、デジカメで写真を撮り、またスタスタと戻って来る。
「早っ!」
これは、あれだな。怖かったから、急いだんだな。
「何よ」
「いや、何でも無い」
少し涙目だが、見てない、見てない。僕と直は、そっと視線を外した。
次はミトングローブ左手右手の片方だ。
銅像で写真を撮ったのはいいが、
「トイレして行こう」
とトイレに寄る。
「あ。ちょっと行って来ます」
立つと、皆がギョッとしたようにこちらを見る。
「トイレはちょっと、夜1人で入るのは、ねえ」
直が言って、皆、モニターに釘付けになる。それを置いて、僕は急いだ。
近くまで来た時、
「ギャアアア!!」
という声と共に、トイレから、ミトングローブ左手右手の片方が転がり出て来た。
「いる、いる、いる!」
「はい、大丈夫ですよ」
僕はそちらに向かって、言った。
「脅かすだけならセーフ。それ以上なら祓います」
霊は、ペコリと頭を下げた。
「わかりました。
さあ、帰りましょう――あ。先に1人でどうぞ」
「ええ!?」
「僕が先に帰ってもいいですけど、ここで僕がテントに帰り着くまで待てますか?」
「無理ーっ!!」
しかしどうしても1人が無理だと言うので、しがみつかれながら一緒に帰った。
帰った途端、ミトングローブ左手右手のもう片方とえりなさん、高田さんが、待ち構えていたように言った。
「見えなかったけど、いたんだよねえ!?」
「脅かすだけならOKって、まだいるの!?」
「何で祓わないのぉ!」
直は困ったように笑い、美里は自分がもう終わってるので余裕だ。
「だって、盛り上がらないし」
「……」
「本命と比べたら、あれくらいはどうって事無いし」
「――!?」
テント内が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれたのは、言うまでもない。
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