第347話 虚ろの国(3)虚ろと現

 先輩に連絡してユーザーを割り出し、師匠の師匠である京都の大御所、津山源堂つやまげんどう先生に確認を頼むと、翌日には、内弟子が異常なしなのを確認してきたと連絡があった。

「ゲームと現実で、あの靄は連動しているのか。現実の方が浄化はやり易いけど、住所が広範囲に渡りすぎて無理だな」

「うん。黒い靄が居座ってるとかいう場所で、その親玉を浄化するしかないかねえ」

「そうだな。はあ。いつもと勝手が違ってやりにくいな」

 僕はぼやきながら、先輩にその方針を伝える為に電話をかけた。


 街の中心部に、その靄はあった。


     皆、死んでしまえ。ああ、イライラする


     クソクソクソ!クソ上司にクソクライアントめ!


     いい大学入っても安心なんてできないのにな


     就職できない。あいつより俺ができるのに


     自慢ばっかりして、嫌な女。死ねばいいのに


 色んな声が聞こえて来るが、他の皆には、ただ靄が集まっているだけに見えるらしい。

「なあ、直。あれ、皆の不満やマイナスの感情が集まったものみたいだな」

「そうだねえ。何がきっかけでこうなったんだろうねえ?」

「できれば調べておきたいな。今後の為に」

 言って、始める事にした。

 浄力で何とかなるが、MPが減って倒せるまでできないだろうと言ったら、先輩はデータを弄ってきた。僕も直も、HP、MP、無限という凄い事になっている。これなら何とかなるだろう。

「さて、いこうか」

 周囲のプレイヤーが、何事かと集まって来た。

 その中で、黒い靄が体から沸き上がり、凶暴化の始まるプレイヤーが続出する。周りのプレイヤーは、応戦したり、けが人を回復したりとし始めた。そして直が、凶暴化したプレイヤーを、結界で囲んで、封じる。

 僕は親玉に浄力を浴びせまくり、とにかく削っていく。僕のMPを知らないので、回復をしてくれる人もいる。

 靄と根競べするかのような戦いも、やがて、靄が小さくなって、勝利した。同時に、プレイヤーにまとわりついていた靄も消える。

 それと共にキラキラと光るものが降って来て、『伝染病を根絶しました』と文字が出る。混乱を避けるために、そういう事にしたらしい。

「伝染病だったのか」

「あ、経験値が入ってる」

 そんな事を言うプレイヤー達だったが、僕は、靄のあった場所から、それを見付けて拾い上げた。

「直、これ」

「間違いないねえ。あの、樹海の札と同系統のものだねえ」

 僕達はその札を手に、こっそりとそこを離れた。


 現実に戻って来て、僕達はその札の写真をプリントアウトした。

 使用不能になっているが、マイナスの感情を集め、人に憑りついて凶暴化させるようなものである。

「樹海の時も、霊を集めて実体化させて暴れさせたし。こいつは何をしたいんだろうな」

「ゲームの中で札を作れるんだねえ。ある程度オリジナリティを出せるようにしたいんだろうけど、パターンの組み合わせとか、歯止めを付けてもらえば再発は防げるかねえ」

「先輩と相談して、すぐに手を打った方がいいな。それと、協会にも連絡を上げておこう。こいつは危険だ」

 たかがゲームだと思っていたのに、とんでもない事になりかねなかった。

「でも、あれだな。割と面白かったな。まあ、霊能師は現実だけでいいけど」

「またやろうよ。違うゲームで」

 その後、先輩に言って札は既製品に固定してしまい、協会は結女の神にネットゲームのパトロールも頼んで、彼女はドラマに続いてゲームにも熱中する事になるのだった。

 そしてレンとナオというアバターはレアNPCになり、PKや迷惑行為などの取り締まりをする鬼のような強さのドS取締官となったらしいというのを知るのは、しばらく後の事になるのだった。


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