第340話 ともだち(4)ヘッドハンティング

 女子3人の背後に現れた霊、坂井さんは、3人をジッと見ている。そこに、妬むとか恨むとかいう感じは無い。

「坂井さん。ふるさと館の隣の神社で自殺したそうですね」

 坂井さんはこちらにやっと目を向けた。


     そうよ。親友だと思っていたのに、裏切られたのよ。


「裏切りですか」


     私を応援するフリをしながら裏で彼を奪ったり、嫌がらせをして、うろた

     える姿を嗤ったり。


 言いながら、悲し気に顔を歪める。


     友情なんて壊れる。だから、悲しまないようにしてあげる。


「どう?」


     友情を壊す。恋を冷めさせる。疎遠にしていく。


 これに、女子3人が噛みついた。

「大きなお世話よ」

「皆があなたのような結末になるとは限りません」

「単にあなたの人を見る目が無かったんでしょ」

 坂井さんがムッとしたような顔をした。


     あなた達の事を思って。


「だからそれが大きなお世話なの」

 坂井さんは、何か言いたそうにしながらも言葉が見つからないのか、口を開け閉めするのみだ。

「あなたには同情しますけど、放っておいて欲しいです」

「あなたの為、とか言って、八つ当たりしてるだけじゃないの?」


     違う――!


「あなたもそこで死なずに見返してやればよかったのに。ばかね」

「そうよ。早まったわね」

 容赦無いな。


     私は……私だって……


 坂井さんはガックリとうなだれている。あ、涙目だ。

 これ以上追い詰めてもまずい。僕は介入することにした。

「坂井さんは坂井さんなりに、親切心でやったんですね。DVで悩むカップルを別れさせたり、ギャンブル癖をやめさせたり」

「あら。いいじゃない?」

 美里が褒め、坂井さんは顔を上げた。

「あの神社、縁切り神社として人が参拝に来てましたよ」

「ダイエット失敗との縁切りとか言ってたよねえ」

「そこで相談なんですが、第2の――いや、第3の人生をやる気はありませんか」


     え?


「ちょっとした、勧誘ですよ」

「住み込み、食事付きだよねえ」

 女子3人が、胡散臭そうな目で見て来た。


 それからどのくらい経った頃か。ネットであの神社が話題になっていた。

 縁切り神社のキリコ様は、別れたい人、病気、悪癖、借金、そんなものと確実に別れさせてくれると。

「あはは。キリコ様ねえ」

 直は笑った。

「順調そうだな」

「適材適所だよねえ」

「別れたい人、別れさせたい霊、ピッタリだもんな」

「元居た神様もいなくなってたしねえ」

「ああ。空き家だったんだし、いいだろ」

 言って、うぐいす餅を食べる。

「それにしても、あの3人、随分仲良くなったなあ」

「エリカもユキも、有名人でも変に遠慮しないというか、そのへんが美里も新鮮だったんだろうねえ」

「美里、友達が欲しかったんだなあ」

「まあ良かったんじゃないかねえ」

「そうだな。まあ、3人が結託したら、口では絶対に敵わないのは確実だがな」

「あの3人を敵に回すのはちょっとアレだねえ」

「ああ。面倒臭い」

 僕と直は、想像しながらお茶を啜った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る