第281話 心霊特番(6)親子
プロデューサーはずっと興奮気味で、カメラマンは、カメラを止めてからガタガタと震え出した。ミトングローブ左手右手は興奮のままに喋りっぱなしで、えりなさんは「えりな、怖かったぁ」とベタベタくっついて来ようとしていたが、僕も直も素っ気無くしていたら、高田さんがミトングローブ左手右手の所に連れて行った。高田さんは、とても気遣いの人らしい。美里様はいつも通り、女王様然としている。
テレビ局に戻って来て解散となると、三々五々、挨拶して別れて行く。
僕と直は、美里様と迎えに来た五月さんとの4人で、近くにあるという美里様の所属事務所に向かった。
応接室に入ると中年の男がおり、美里様は足を止め、男は腰を浮かせた。
「五月さんにお願いして、電話してもらいました。美里様のお父さんですよね」
男は立ち上がり、一礼する。
「娘がお世話になりました」
美里様はフンと鼻を鳴らすと、どっかと空いた椅子に座り、足を組んだ。
「話って何」
皆、ソファに腰を下ろす。
「美里様にはずっと、一体の霊が憑いていました。今も憑いています」
ギョッとする皆だったが、僕と直が落ち着いているので、座り直して話の続きを聞く気になったようだ。
「20代終わりくらいの痩せた女性で、肩より少し長いくらいの髪。銀細工の葉っぱに真珠が1粒乗ったデザインのペンダントをしています」
美里様親子が、表情を変えた。
「その霊がずっと美里様を守っていて、そのせいでこれまで、本人にはケガなどの影響が出ずに済んでいたようです。その方にお心当たりはありますか」
「……美里の、母親です。たぶん」
父親が言うのに、美里様がかみつく。
「そんなわけない!あの人は私が要らないから売ったんでしょ!?」
「はあ?誰がそんな事を?」
「デビューしたての頃、そう、記者が」
「違う!美香は病気で助からないとわかって、それで、それまではどうしても自分が育てると言っていた美里を、僕に託すことに同意してくれたんだ!その後ほんのしばらくで、亡くなってしまったが……そうか……」
しんみりする父親に対し、美里様は混乱している様子だ。
「何、どういう事?私は要らないから売られたんでしょ?それでまた要らなくなったんでしょ、弟ができたから」
父親が、理解できない、という顔をしている。
「怜。これは、実際に会った方がいいかねえ」
「大丈夫かな」
「まあ、じっくり話せば」
「そうだなあ。途中で出て行こうとしたら、取り敢えず話が終わるまでは動けないようにしよう」
直が、今も美里様の後ろに立つ霊に、札を貼り付ける。それで、皆に見えるようになった。
「美香!」
「お母さん?」
霊は泣くような笑うような微妙な表情を浮かべて、父親と美里様を見た。
「まだ3歳だったから、難しい事はわからないと思って説明しなかったから……。でも、美里。お父さんの言った通りよ。要らないなんてわけないじゃないの」
混乱はしているようだが、心配はなさそうだ。
しばらく親子3人にしようと、僕と直と五月さんは応接室を出た。
3人でコーヒーを飲む。
「色々とありがとうございます。気も使っていただいて」
「プライベートな事だから、他の人に知られない方がいいかと思いまして」
「あの記者にでも知られたら、面白おかしく書かれそうだもんねえ」
「でも、誤解を与えがちなのは本当だから、トラブルは今後も心配ではありますけどね」
「それはもう本当に。ええ」
五月さんは、深く溜め息をついた。
マネージャーって大変だなあ。
お菓子もごちそうになって、過去に出た番組の話から中東事情やアメリカの選挙に話が及んで、ようやく応接室のドアが開いた。
父親も母親の霊も柔らかく微笑み、美里様は女王様然としながらも、どこか表情が柔らかい。
「スッキリしたようですねえ」
「ありがとうございました」
「しかし残念ですが、このまま憑いて過ごす、というわけにはいきません」
父親と美里様はピクリと肩を揺らした。
「はい。心配はなくなりましたので、もう、心残りはありません」
「では、逝くお手伝いをさせていただきます」
「お願いします。ふふっ。こうしてこの人と娘に送ってもらえるなんて、考えてもみませんでした」
「ま、待って!あの、お盆には帰って来る?ウチ、霜月だけど、いいわよね?」
「京子さんは嫌じゃないかしら」
「大丈夫だ。うちに帰って来い」
「そう?じゃあ、そうさせていただくわ」
まとまったようだ。
静かに、浄力を当てる。母親は幸せそうに微笑んだまま、手を振って消えて行った。
後日、我が家のリビングで、僕はテーブルに突っ伏していた。
兄が録画予約していた番組の放送を見ていたら、思った以上に、僕も直も出てしまっていた。その上スタジオで出演者に色々とロケ中の事を話され、墓場でのスケルトン発言や音楽室のピアノ騒動から「天然ほど恐ろしい素人はいない」「天然S型霊能師」という変な呼び名を付けられてしまっていたのだ。
「ああ。学校で絶対何か言われる。熱烈な美里様ファンの智史とかにロケの仕事黙ってたの怒られるだろうなあ。面倒臭いなあ」
兄が、慰めるように肩を叩いて来た。
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