第279話 心霊特番(4)学校の七不思議
学校の七不思議。どこの学校にもありがちな怪談だ。なぜか新設の学校にも関わらずあったりして、笑ってしまう。
「それを1つずつ検証していきます。
夜中にピアノを弾く幽霊。これは、夜中に音楽室でピアノの音がするそうです。
笑う人体模型。夜中に保健室の人体模型に向かって面白い話をして、面白くなかったら、怒った人体模型が襲って来るそうです。
追いかけて来る校長先生。授業中にウロウロする生徒を叱るために校長先生が竹刀を持って巡回していたそうなんですが、渡り廊下をウロウロしていると、校長先生が追いかけて来るそうです。
油を探す家庭科室の霊。調理実習の時に油が見付からなくて、先生が探している最中に急性クモ膜下出血で亡くなって、今でも、戸棚1つ1つ開けて探しているそうです。
鏡に映る死に顔。午前2時に体育館の鏡の前に立つと、自分の死ぬ姿が見えるそうです。
友達を待つ霊。一緒に死のうと約束した女子2人がいて、片方は怖くなって行かなかったらもう片方だけが屋上から飛び降りて亡くなって、今も、友達が来るのを待っているそうです。
体操する全校生徒。戦時中、運動場で体操している時に敵機の攻撃があって、生徒が大勢亡くなったらしいですが、今も運動場で、体操しているそうです。
これを手分けして、検証します」
高田さんが言い、えりなさんとミトングローブ左手右手が怖がる。
「人体模型は、ミトングローブ左手右手しかいないよね」
「まじっすか!」
「命がけのネタじゃねえか」
台本通り、担当が振られて行く。えりなさんは家庭科室、美里様は鏡、高田さんは校長先生、他は全員だ。台本通りに怖がったりして、撮影は進む。
どれが本当か嘘か、僕と直は丸わかりだが、まだ言わないようにと言われていた。
真っ暗な保健室で、人体模型を前に漫才をするミトングローブ左手右手。それを離れた所で全員がカメラを通して見る。
走って帰って来るミトングローブ左手右手に、美里様はつまらなさそうに言った。
「人体模型は笑わなかったわね」
「まあ、ネタ的にはセーフってことなんですか。ううん、本当か嘘かはグレー判定かな」
高田さんがどうにか穏便にまとめる。
次は家庭科室で、えりなさんが戸棚に隠れるというものだ。ビクビクしながら隠れるうちにガタッと音がして、ぎゃああと叫んでえりなさんは半泣きで走って来る。
「何か音がしましたよ。これは」
「住み着いた夜行性の小動物でしょうね」
問われて答えると、美里様は失笑した。
次は渡り廊下で、高田さんが立つ。10秒、20秒、30秒。
「出ませんね。これは?」
「いませんね」
「うそだねえ」
ミトングローブ左手右手に訊かれて答えると、ミトングローブ左手右手とえりなさんが派手にガッカリしてみせた。
これはこれで、プロ根性なのかも知れない。
次は体育館の鏡だ。午前2時、鏡の前に美里様が立つ。
「……もういいかしら」
「何も映りませんでした。これはうそでした」
高田さんが締めた。
流石に、本当にヤバイところに1人で行かせるのは無理だ。プロデューサーには、本当にいる所を言ってある。
「次は、音楽室だな」
ぞろぞろと入って行く。古いピアノがあり、壁には音楽家の絵が貼ってある。
音、狂ってるだろう。いや、出るのか?
何気なく鍵盤に指を乗せてみた。
悲鳴と、狂った音が響いた。
「あ、すみません。音、出るのかなあと思って」
ミトングローブ左手右手、えりなさん、高田さんが、へたり込んだ。美里様は、肩を大きく下げて深呼吸し、プロデューサーはいい笑顔でサムズアップしてきた。
「怜……」
「いやあ、つい、気になって」
悪いことをしてしまった。
「結局、ここも、うそでした。
ああ、マジでびびった」
高田さんが締めて、次へ移る。屋上だ。
全員で屋上に出るが、ここにも何もない。大体、屋上が解放されている学校など無い。マンションですら、施錠されているものだ。
「ここもうそですね」
最後の運動場に向かう。
「これまでの6つは全部うそでしたけど、これはどうでしょうねえ」
「見えないからわからないし」
高田さんとえりなさんが言いながら、運動場を見渡した。
実はここにはうじゃうじゃいるのだ。それが見える僕達は、落ち着かないでいた。テレビの撮影というのに言わば興奮しており、こちらを警戒心いっぱいに見ているのだ。
「そろそろ……」
「次に行こうかねえ」
促す僕達に、全員が「まさか」という顔をした。
が、美里様の取った行動に、僕達も含めて全員がさらにギョッとさせられた。美里様は大声で、叫んだのだ。
「いるなら出て来なさいよ!いるだけで何もできないの!?とんだ役立たずね!」
「みみ美里様!?」
「突然何を仰って」
ミトングローブ左手右手が、素で美里様を黙らせようと慌てた。
「来るぞ」
「こっちはOKだねえ」
「何、何、何!?」
高田さんとえりなさんが狼狽え、美里様は悠然としている。
「あら、ここは本当なの」
そんな皆を背に、運動場を前に立つ。その前で、気配が凝って行く。
アソビニキタノカ
バカニシニキタノカ
ミセモノジャナイ
そしてあちらこちらで、もやのような状態になって可視化していった。スタッフからも出演者からも悲鳴が上がる。
「多いな。直、集めて一気に祓おう」
「わかったねえ」
札を放つと、それに向かってどんどん霊が集まっていく。数十体いた霊体が札に集められるのは、なかなか壮観だ。それに向かって浄力を放ち、浄化する。
「……終わった?」
「……助かった」
「美里様、お願いします。あんまり霊を挑発しないで下さい」
「う、まあ、覚えておくわ」
「じゃあ、移動しまあす」
ADの声にバスへ行きかけ、気が付く。
一番のプロは、カメラマンかも知れない。動じず、霊も出演者も撮影していたようだ。
「凄いな」
密かに僕は、尊敬した。
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