第266話 交換日記(2)偵察
今日、新しい友人ができました。御崎 怜君といって、今年入学した一年生です。頭もいいし、顔だって悪くない。なのに、いつも無表情で不愛想で、それで女子受けが悪いようです。本当は優しくて照れ屋でかっこいいんだけどね。料理だってうまくて、驚くよ。
料理と言えば、――
日記をポストに入れた翌日は土曜日で授業はなかったが、直、智史、真先輩が、べったりと貼り付いていた。
「何も起きないな」
「褒め足りなかったかな」
「それよりもやっぱり、女の子じゃないからだろ」
「甘いよう、怜。世の中に腐女子、貴腐人がどれだけいるか」
婦女子、貴婦人?時々直は妙な事を言う。
僕達4人は、部室で暇を潰していた。
「それにしても、どうやってその記述の人がその人だとわかるんだろうな」
日記に、彼女達の名前までは書いていないのに。
「まるで、いつもついて歩いてるみたいだねえ」
「でも、昨日来た時は、憑いてなかったんだろう?」
そこが、わからないところだ。
悩みながら、あんかけ蟹玉ラーメンを作る。インスタントラーメンをゆでて湯切りし、丼に移す。そしてカニカマをほぐしたものを卵に混ぜて焼き、麺の上に乗せる。後は、付属のスープを少し濃い目に作って水溶き片栗粉でトロミを付け、丼に上から注ぐ。
レンジで温めたシューマイと中華ちまきを皿に盛り、テーブルに運んだ。
「インスタントラーメンやのに、高そうになったなあ」
「美味しそう。冬にはあんかけだよね」
「お腹空いたあ」
わいわいと、昼ご飯となったところだった。いきなり、窺うような気配がした。
「ん?」
そっと、覗く感じだ。直もわかったらしく、ラーメンを啜って、どうする?と目で訊いて来る。
いや、どうしよう。この気配の主が分かる方法はないものか……。
「ええっと、斉田先輩、今頃何してるのかなあ」
突然の直のセリフに、智史と真先輩は顔を直に向けた。
何となくわかったのか、真先輩が先に乗って来た。
「バイトだっけ。寒いだろうね。こんな、かに玉あんかけラーメン、喜ぶだろうねえ」
「しかも怜の手作りやしな。ああ、斉田さんに申し訳あらへんなあ。抜け駆けしてもうて」
「お弁当、作って欲しそうだったもんねえ。おにぎりだけでもいいって」
「あれはもしかして、そうなんかもな、潜在的に」
気配が急に、大きくなって接近してきた。そこを、見る。
ガリガリに痩せた女性だった。ジャージの上下で、艶の無い髪は長くてボリュームも無く、顔を覆うように肩と背中に流れている。そしてギラギラとした目が、僕を見、次いで、テーブルに向く。
ゴクリと唾を呑み込んだ、らしい。
そして急に苦しみだして、消えた。
「え……?何?」
僕と直は、呆然とした。まだ何もしてないのに、どういう事だ?
未だコントを続けている智史と真先輩に、一方的にダメージを受けて帰ったと言うと、2人もキョトンとした。
「何もしてへんのに?」
「やっぱり違うな、と思って帰ったんじゃないのかな」
「何か、ダメージを受けてたような気も……」
しかし、分かった事がある。
「取り敢えず、斉田さんの彼女の生霊ではなかったな」
「うん、そうだねえ。今の、日本人だったよねえ」
斉田さんの彼女は、ブラジルから来てホステスをしているマリア・ボルソナさんで、どこから見ても、ブラジル人っぽい人なのだ。
生霊でなくて良かった。そこまで嫉妬深い彼女って、嫌だろうからなあ。
僕達は安心して、残りのラーメンを啜った。
斉田さんのバイト先のスーパーに行き、休憩になったところで、昼の一件を話す。
「一体誰なのか、心当たりはありますか」
「いやあ、ちょっと」
斉田さんは首を捻った。
「一方的に斉田さんに付きまとう女かも知れんで」
うんうん、と直と真先輩が頷く。
「まあ、とにかく、マリアさんの生霊ではありませんでした。なので、今度はマリアさんが心配です。一度お会いしたいのですが」
「明日は2人共休みなので、明日の昼過ぎに会いますよ」
「では、明日、斉田さんの家に行きます。よろしいですか」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
そう言って、斉田さんは仕事に戻って行った。
さあ、こちらは今から作戦会議だ。
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