第249話 もういいかい(1)晴天の霹靂

 晴天の霹靂。晴れた日に突然雷鳴が鳴り響いて人々を驚かす様。またはそのような出来事。

 そのことわざ通り、晴間が出ていても、落雷がある事はある。しかし大抵の人は、晴れていたら遠くで雷鳴がしていても、今からこっちも雨になるかな、と思うくらいかも知れない。

 彼女達もそうだった。離れた所では雷の音がしていたが辺りは晴れていたので、そのまま遊んでいたのだ。

 なだらかな丘の上でのかくれんぼ。大木の下で鬼が10数え、他の5人は、周りの低木や銅像、トーテムポールの陰に隠れる。

「8、9、10。もういいかーい」

 大木の幹に張り付くようにして鬼が10まで数えたその時だった。突然激しい音と光が大木に降りかかり、その光が生きているように、鬼の子の体に流れる。

 焦げ臭い臭い。ビクン、と硬直して棒のように倒れるその子。燃え出す大木。

 隠れていた子供達は、一体何があったのかわからないまま、大人が様子を見に来るまで泣いていた。


 そのニュースは痛ましい事故として各局で報じられ、僕も見た覚えがあった。

 御崎みさき れん、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「晴れてたら、まあ、油断するよねえ。雷も遠いし」

 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「遠くで鳴り出したら、まあ、ゲリラ豪雨になるかも、とは思っても、雷がここに落ちるかも、とはなかなか考えないからな」

 御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、今は警視庁警備部に所属する警視だ。

「そうなんだよねえ。親御さんも、雷の時は――って言って聞かせてたらしいけど、まさか、だよね」

 徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警視庁キャリア組警察官で警視正。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。

「で、まあ、遊んでた子もショックを受けてたようだけど、それはカウンセラーの仕事でね。

 実は、1人、おかしな死に方をした子がいてね。その調査と、必要な処置を頼みたいんだよ」

 徳川さんはそう言って、冷たいお茶を飲んだ。

「おかしな?」

「最初に亡くなったのはミキちゃんっていうんだけど、その宇蘭ちゃんって子は、『ミキちゃんの声がする。もういいかいって言ってる』と言うようになって、次の日は、『ミキちゃんが探しに来る』と言って泣き出して、その次の日の朝に、遺体で見つかったんだよね。突然死ってやつだが、健康体そのもので、原因は不明」

 健康な人でも、突然亡くなる事はある。だが今度の場合は、亡くなる前に宇蘭ちゃんが言ってたミキちゃん云々が引っかかる。

「わかりました。調査に入ります」

「うん、頼むよ」

 子供相手は苦手だ。面倒臭い事にならなければいいが。そう思いながら、僕と直は、関係資料を受け取って読み始めた。













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