第192話 実証(4)サギ予防キャンペーン
太刀魚で人参といんげんを巻いてソテーしたものを梅肉ソースを敷いた上に盛り付け、ほうれん草と菊花の和え物を添える。後は、間に味噌を挟んで揚げた揚げ出し豆腐、昆布で作った船に牡蠣としめじと人参と銀杏を乗せてフライパンで焼いた牡蠣の宝船、栗ご飯、マツタケの澄まし汁。
「よし。
できましたよー」
声をかけると、リビングでテレビを見ていた兄達がダイニングテーブルに寄って来る。
「うわあ、美味そう」
徳川さんが嬉しそうに声を上げる。
陰陽課の生みの親で総責任者でもあるキャリアで、元、兄の上司だ。飄々としているが、なかなかのやり手らしい。まあ、時々僕が仕事上会うせいもあるが、兄が配置転換になってからも、こうして遊びに来たり、僕の受験勉強の進み具合を見に来たりする。
「揚げ出し豆腐もいいけど、一番のおすすめは、この牡蠣の宝船です」
兄が言う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意、クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の、頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警備部企画課課長である。
「今日は飲めるんでしょ?栗ご飯と松茸のお吸い物は後にするよね」
「それも楽しみだなあ」
大人2人は楽しそうに、日本酒の4合瓶を開けた。僕と直は御茶だ。
「いただきます!」
料理と飲み物に舌鼓を打つ。
しばらく食事を堪能していたが、先ほどまで見ていたテレビの話になる。
「上手いことしたんだなあ。新聞でもいい反響があったし、テレビでもいい感じだろ」
徳川さんが言った。
「だったらいいんですけど。
とりあえず、あの母子は落ち着いたみたいですよ」
あの後新聞で実験の模様に触れ、『カルト教団の被害者家族』という連続の特集が組まれ、洗脳やそこからの脱却など、被害者のルポを連載した。
テレビは今日放送で、まずは入って行くところからそのまま放送し、その後実際に仕掛けを実演して見せ、それに合わせて大学の専門家の解説を付け、教会の支部長が、頭から信じるのも否定するのも同じくらい危険だと言って、何かあれば相談して下さいと締めくくっていた。
この後、この仕掛けは文化祭で使用する事になっている。
受付の幽霊のお姉さんはいないが。
「サギに利用するのは許せないよねえ」
直は静かに怒っている。田舎のお爺さんの友人が騙されそうになったのも、他人事ではないという感じなのだろう。
「でも、なくならないよな、この手の事件」
「見えないからなあ」
「人の不安を衝いた巧妙な手口だな」
「本物を見た時の教祖のビビリッぷりにあの時は上手く皆幻滅してくれたのも助かったけどねえ」
4人で言いながら、ご飯を食べる。
「文化祭、心霊研究部はお化け屋敷か」
「面白そうだから、また行こう。
それより、エリカクンとユキちゃんはノータッチだったね。むくれてないか?」
「ああ。めっちゃくちゃ文句を言われましたよ。な」
「うん。でも、2人は私学の試験が近くて、それどころじゃないだろうなあって思ったから。なあ?」
「そうそう。まあ、渋々納得はしたけど、その分、文化祭は参加するって言ってましたよ。物凄く張り切って」
「目に浮かぶよ」
高笑いして釣り竿を振り回す姿を想像して、同時に噴き出した。
「ま、まあ、これで少しでも思い込みとか騙される人とかが減ればいいな」
「で、2人が現役で予定通りに合格したらもっといい」
兄と徳川さんが言って、僕と直が、
「はい。がんばります」
と大人しく返事すると、兄達はグラスを軽く合わせて乾杯していた。
「春は、4人でもう1度乾杯する事を願って」
グラスとお茶のコップが、音を立てた。
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