第99話 夢と現(3)逃走

 目を開けると、見慣れた天井があった。思わず飛び起きて、

「戻った!?」

と叫ぶ。

「渉!?」

 布団のそばには、両親と、昨日、今日と会った高校生の2人組みがいた。

「良かった」

 取り敢えずは戻ったみたいだけど……いや、戻った夢を見ているとかとかいう事はないだろうな。

 ガンガンと頭をたたいてみた。慌てて親が止めて来たので、痛い気はしたが、確信は持てない。

 庭に飛び出してみたら、クロがいた。丸まっていて、「クウウン」と一声鳴いた。

「戻ったのか、本当に」

 笑いがこみ上げて来た。

「どうして入れ替わったのかも、どうして戻ったのかもわかりません。まだ、注意した方がいいと思います」

「はい」

 しおらしく頭を下げる親なんて見るのは、初めてじゃないか?

「良かったァ。あのまま犬だったらどうしようかと……」

 大人しく寝るクロを、ジッと見つめた。


 一言でいえば、疲れた。原因も方法もまるで不明。これでは、また入れ替わったら、どうすればいいか。

 朝方、一旦家に帰ってから学校に行き、僕は、これで本当に終わりなのか確信が持てないでいた。

 何があったのかは渉本人に聞いたが、なぜ、どうやってについては、さっぱりだ。

「もう大丈夫なのかなあ」

「だといいが……。また、面倒臭いなあ。こんなの、課長も津山先生も知らないって言うし、またもう一度入れ替わって、今度は勝手に戻らなかったら、なあ」

 揃って、嘆息する。


 渉は念のために学校を休んで、家にいた。

 今はいい。でも、また入れ替わったりしないだろうか。

 いや、今が入れ替わっているなんてことは?

 ひたすら、混乱してくる。人になる夢を見る犬なのか、犬になる夢を見る人なのか。もう、気が狂いそうだ。漢文の時間に先生が言ってた、蝶になる夢を見た人か人になる夢を見た蝶か、本当はどちらなのかわからいという話を書いた何とか。聞いた時はバカバカしくて、その名前すら誰だったか忘れたのに、自分の身に起こるとは。

 渉はブツブツと言ったり、ハハハと笑ってみたり、傍から見れば、かなり薄気味悪い。

 その内、考え込んだと思ったら、クロをジッと見つめた。

 両親は揃って会社を休み、どうしたものかと額を突き合わせてはいたものの、いい考えなど浮かんでは来なかった。

「今なら、渉本人の魂が渉の体に入っているんだよな」

 父親が言うのに、母親と渉が、ハッとしたように父親を見た。


 放課後に白金家へ行った僕と直は、それを聞いて愕然とした。

「クロがいなくなった!?」

「どうしてですかあ!?」

 白金家の3人はお互いに譲り合ってから、父親が口を開いた。

「今のうちにクロを殺処分すれば、もう入れ替わる事も無いだろうと思ったんだが、逃げられて・・・」

「どこに行ったかわからない、と」

「はあ」

 とても面倒臭い、嫌な予感しかしなかった。







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