第100話 夢と現(4)殺処分

 檻の中だった。飛び起きて、声を限りに叫ぶ。

「ワン、ワン、ワン!!」

 誰も来ない。コンクリートの牢屋みたいな部屋で、鉄格子がはまっている。そしてこの牢獄には、自分の他に4匹の犬がいた。どれも雑種だ。

 ネットで見た事がある。一日ずつ隣へと牢獄がずらされて行って、最後の日にはガス室へと送られ、殺処分されるのだ。

 死ぬのは何日目だ!?ぼくが犬の日か、人間の日か!?目の前が、真っ暗になった……。


 犬化した渉を見て、両親は半狂乱になった。どうして逃がしたの、いえ、さっさとあの場で殺せば良かった!

 とにかくクロを探すしか無いと、走り回り、張り紙をする。

「クロー、いや、違うか。渉くーん」

 保健所に行ってみたが、いなかった。別の保健所かも知れないし、保健所ではないどこかかも知れない。

 血眼になって探す皆をよそに、クロは、犬の時には食べたことの無いご飯をもらい、お菓子を食べ、テレビを見ていた。

 こっちの方がいい暮らしだ、と、思わずニヤリとする。

 昨日ここから逃げ出したあと、クロはかなり移動して、そこで保健所に捕まったのだ。檻の中で目を覚ました渉には、それがどこなのかわからない。その後人に戻っても、どうしようもなくまた入れ替わり、犬の体に入って死ぬ事になるのは、あちらの番だ。

 それをクロは、人間の会話から察していた。

 思い知ればいい。


 そこらを探し回り、保健所にも行く。

「はあ。入れ替わりがわからなくとも、とにかく見つけておかないと」

「何で余計な事をするんだろうねえ、全く」

 ぼやきながらも、探す。

「どういう原理なんだろうな。一生人と犬を繰り返すというのも困るだろ。それこそ、寿命の尽きる日、どっちの体なのか、とか」

「仕事とかもできないよねえ」

 津山先生達も、一生懸命、方法を探してくれている。

「とにかく見つけないと。

 ああ。写真の一枚でもあればまだ早いのに」

 隣の市の保健所に、入った。


 気が付くと、家だった。

「嫌だ!このまま、戻りたくない!死にたくない!」

 渉は喚き散らした。

「どういう事!?」

「保健所なんだよ!明日、殺処分されるんだよ!」

「どこの保健所なの!?」

「檻の中で、わかるわけないだろう!」

 親子3人、泣き喚いた。

 その頃、檻の中で気が付いたクロは、落ち着いて体を丸めた。

「今日は大人しいな。諦めたのかな。かわいそうだけど」

「わかるんだよね、この子達にも、明日って」

 職員が、そう言った。


 目が覚めた渉は、絶叫した。

「ウワオオオオオン!!」




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