第88話 ずっと一緒(1)卒業式
卒業式は、ワクワクと寂しさが入り混じって、名残惜しくて、なかなか誰も帰ろうとしない。
クラス代表で卒業式に出席する事になった僕達も、さっさと帰るというのも帰りづらい。
やたらと泣きながら、
「これからもずっと友達だからね」
「うん、ずっと一緒よ」
などという会話が、そこらじゅうでされているのを聞いて、
「女子って、何であんなに泣くのかな。家が近かったり、電話もあるし、別に、今生の別れというわけでもないのにな」
と、ぼそりと思わず言ってしまう。
御崎 怜、高校1年生。去年の春、突然霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺し、秋には神喰らいという新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「ええっと、雰囲気?」
クラス代表男女2名ずつの、女子代表になってしまったユキが言う。
天野優希。お菓子作りが趣味の大人しい子で、同じ、心霊研究部の部員でもある。
「御崎君」
知らない女子の先輩がこっちに来る。
「あの、良かったらアドレス交換してもらえないかな」
「あ、相談ですか。だったらこれを」
名刺を差し出す。
先輩はなぜか微妙な感じで受け取ったが、訊き返す前に、「自分にも」という先輩達が殺到したので、名刺を配りまくる営業会みたいになってしまった。
やっと落ち着いたので、
「やっぱり女子の方が情緒不安定なのかな」
と言ったら、やはりクラス代表になってしまった直に、
「刺されるよ、怜」
と苦笑された。
町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。夏以降、直も霊が見え、会話ができる体質になったので、本当に心強い。だが、その前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「ああ、勿論性別で差別しているわけではないからな」
言い訳ではない。現に、中世、ポルターガイスト現象を起こしたのは十代の女子が多く、その理由に女子の方がこの時期は特に不安定だというのが挙げられている。ホルモンバランスの変化とか、そういうのだろう。
「いや、そういう意味でもないでしょ」
呆れたように、エリカが言う。
立花エリカ。オカルト大好きな心霊研究部部長だ。霊能ゼロだが、幽霊が見たい、心霊写真が撮りたいと、日々心から願っている。
エリカも、クラスは違うが、クラス代表になったらしい。
「ま、いいや。それよりこれからどうする?昼ご飯、食べて帰る?」
直がこの話題を終わらせ、別の話題を出す。
「そうねえ。新学期の、新人獲得の作戦も練らないといけないしね」
張り切るエリカに、
「面倒臭い。増やさなくても、別にいいんじゃないか?昼に部室でお弁当食べるのも4人くらいで丁度だし」
と言う僕に、ユキと直が吹き出す。
「想像通りのコメントです、怜君」
「大体、弁当を食べる快適空間を求めて入部したからねえ」
「文化部一の地位を手に入れるのよ。レンジ、欲しいでしょ」
「レンジ・・・欲しいな」
「人数が増えたら活動費も増えるのよーん、怜君」
「ムムム」
「レ・ン・ジ」
「……まあ、ちょっとなら――って、待て。活動費でレンジは買えんだろ。報告できない」
「チッ、気付いたわね」
なかなか腹黒いコメントだ。
そんな事を言いながら、やっと卒業生が帰り始めたので、僕達も、学校を出たのだった。
両親の墓参りの帰りに、外食をした。ベトナム料理の店で、生春巻きが一番美味しかった。
「もうすぐ怜も2年生か。今年は、進路相談もあるんだな」
兄が、帰り道で言いだした。
御崎 司、ひと回り年上の兄だ。若手で1番のエースと言われる刑事で、肝入りで新設された陰陽課に配属されている。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。頭が良くてスポーツも得意、クールなハンサムで、弟の僕からしてもカッコいい、自慢の兄だ。
「うん、そうだな」
「霊能師でいいのか」
「突然体質が変わって得た能力だから、突然なくなるかもしれないし、手に職を付けた方がいいかとも思うし。
霊能師以外なら、公務員なんてやっぱりいいよなあ」
「どの省庁を希望するかでも変わってくるが、そうなると法学部だな」
「兄ちゃんは最初から、警察庁に決めてたの」
「まあな。ただ、地方へ転勤するのは怜が小さい内は特に困ると思ったから、転勤なしを聞いてくれるところというのが、希望だった。最終的には、警察庁と防衛庁が残ってたな」
「それが認められるのが凄いなあ」
「成績だな。後、堂々と」
「……僕のせいで、人より苦労させてるよな」
「怜のおかげで、突然の親の死からもすぐに立ち直れたし、充実した楽しい人生が送れている。苦労なんて思い当たらんぞ。
ああ、時々危ないことをするのだけは、苦労か」
などと言っている内に、トンネルに差し掛かる。最近事故があったばかりらしく、壁際に花束が並んでいて、今も若い女性が手を合わせていた。
「事故は急で、嫌だね」
「ああ、そうだな」
嫌でも両親の事を思い出す。
「今度に休みの日にでも、花見に行かない?直とか徳川さんとかも一緒に。お弁当もいいけど、バーベキューとかして」
「徳川さんも喜びそうだな。声をかけてみるか」
そんな事を話しながら、そこを離れた。
電話片手に、考える。
九条景子。誰だったっけ。覚えが無いが……ああ、卒業式の日、名刺を渡した人か?
「先輩、ですか」
「そう。覚えていてくれたのね」
嬉しそうに声を弾ませてくれるのに「当たりましたか」とも言いづらい。
「どうかしましたか」
「ちょっと、相談したい事があって……」
「わかりました。では、お話を伺います」
霊能師の顔で、答えた。
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