第77話 ねがう(3)夢の通い路

 また、新聞で突然の飛び降り自殺が報じられていた。

 願い。願うこと自体は悪くは無い。ただし、人を陥れるような願いは、悲しい。

「あの社と後南朝の時の術師軍団が一緒で、目的は、日本を手中に収める事か」

 関東支部長は、唸った。

 支部の主だった役員と、徳川さん、兄、蜂谷、僕、直が、会議室に集まっていた。

 蜂谷に関しては意見が分かれたが、取り敢えずは今は共闘できるとし、ここにいる。

「社を使って、何をしていたのかね」

「ユングの集合的無意識、かもしれません。

 結女の神の特別祈祷を受けると、夢の中に結女の神が現れて、強く意識した相手に作用を及ぼすといいます。たくさんのパスをつなげて、利用できる人間は取り込み、危険な人間は排除する、そういう事も画策していたかも知れません」

「しかし御崎君、たかが夢だよ」

 ああ、そうか。わかったぞ。

「突然自殺させたり、別れさせたり、告白させたり、夢で暗示を与えたんでしょう。

 現に、僕も連日知らない人が夢の中に出て来て、その人のいう事を聞かなければいけないと繰り返されました。その結果、蜂谷さんが間に合わなければ、付いて行くところでしたから。

 特別祈祷のカラクリは、これでしょう。宝くじが当たるようにとか試験に合格するように、なんていう願いではなく、心理操作でどうにかなる願いだけに絞ったのも、そういう意図なら納得できます」

「恋愛の神様なら、そういう願いばかり集まるなあ、確かに」

 徳川さんが唸った。

「ユングの学説は正しいのかね」

「それはともかく、特別祈祷でパスを神社に来てない人間にもつなげている事から、そうだと考えるべきだと思います」

「今、どのくらいの人間がつながっているんだろうね?」

「そればかりは……。でも、知り合いの知り合いというふうにつないでいったら、あっという間に凄い数のつながりになると、試算されますよ」

 役員が言って、皆、呻く。

「どう対処するべきか……」

「今すぐ急襲して捕まえるとか」

「しかし、パスでつながったままだろう。1人でも漏らしたり、獄中で術を使われたら?」

「結女の神に、消えて頂くか」

 皆の視線が僕に集まる。

「大丈夫なのか」

「蜂谷さんのサポートがあれば、多分」

 今度は蜂谷に視線が集まる。

「え、俺?」

「さっき、何かしただろ。あれで、頭がクリアになった」

「ああ。分かり易く言えば、ウイルスバスターみたいなもんだ。それを入れた。

 なあ、もしかして、俺をワクチン代わりに携行しようとしてるか、怜怜」

「それしかないだろ」

 全員が、成功とリスクを秤にかける。

 やがて、採決がとられた。


 医務室のベッドに横になる。2つくっつけて、隣に蜂谷が寝ころび、手をつなぐ。

「何か、微妙」

「微妙言うなよ、怜怜。俺だって恥ずかしいわっ。兄貴は向こうで、殺しそうな目で見てるし」

「ああ、兄ちゃん……心配させて悪いなあ」

「おい。俺にも悪いと思えよ」

「さあ、寝られるかな」

「無視?酷い、怜怜」

 アホな軽口を叩いているうちに、緊張がほぐれて来る。

 睡眠を促すような札を直が書き、発動させる。

「お休みぃ」

 連続でこんなに寝るのは初めてだ。睡眠リズムが狂ったら疲れるのにな。これもみんな、後南朝の残党のせいだ。

 ああ、面倒臭い。







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