第54話 祟り神(1)2つの皇家

 南北朝時代。京都と奈良、朝廷が2つになり、各々が正当性を主張した。しかし、北朝が今の皇室へとつながっていき、南朝は表舞台から消える。これが、日本史の内容である。

 南朝の子孫は細々と代を重ね、今も復権を狙っている。これが、都市伝説であり、実際戦後には熊沢天皇を自称する者も出たが、黙殺された。

 しかし、それを単なる都市伝説、与太話と言ってられない出来事が、起ころうとしていた。


 国会議員の未遂も含めた呪殺事件、どうしても常識で測れない事件が頻発し、政府は、警察にこれに対応する部署「陰陽課」を設立。また、霊能者を霊能師と呼称を統一し、国家資格とした。

 一方霊能師も、霊能師協会を設立し、はぐれた外道術師やインチキ霊能師を取り締まれるようなシステムを構築し、また、警察や市区町村の要請があれば、事に当たることになった。

 そして、古参だろうと何だろうと、霊能師を名乗るならば試験を受け、合格した者だけが、霊能師の名乗りを上げることができるようになった。霊能師以外が霊能活動をすることは法律で禁じられている。教員免許がない者が教師になれず、医師免許のない者が医療行為を行えず、弁護士資格がないものが弁護活動できないのと、同じである。

 第一期生の中には、この道うん十年の大ベテランから、一年前は一般人だった新人までがいた。

 そのうちの一人が僕、御崎みさき れん、高校1年生。春に突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺しという新体質までもが加わった新米霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に何度も遭っている。

 そして、町田 直、高校1年生。幼稚園からの友人だ。人懐っこくて要領がよく、驚異の人脈を持っている。直も夏以降、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強いが、その前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。

 常に身に付けるよう義務付けられているバッジを見て、僕達はどうしようかと話していた。

 体育の時間までは言われまい。でも、制服とか私服の時は付けろと言われていた。というのも、突発的に対処しなければならないことが、起こり得るからということだ。

「でも、なあ」

「授業中にもいるかなあ、これ」

「いらんだろ」

「取り合えず、誰かに何か言われそうだよねえ」

 共に乗り気でなく、溜め息は重くなる。

「まあ、とりあえずは食べるか」

 いつも通り、心霊研究部部室でお弁当の蓋を取る。

 一口大に切ってゆでたじゃが芋にしょうゆとかつお節を絡めただけのおかかじゃが、ほうれん草の胡麻和え、れんこん、ごぼう、人参、こんにゃくのきんぴら、エビのパン粉焼き、マカロニサラダ、鯛めし。

「ああ、いいなあ。エビと私のエビフライ交換してよ」

 ねだってくるのは、立花エリカ。オカルト大好きな心霊研究部部長だ。霊感ゼロだが、幽霊が見たい、心霊写真が撮りたいと、心から日々願っている。

「バッジ、付けたらいいんじゃありませんか。ほんの何日かのことですよ、煩わしいのは」

 そう言うのは、天野優希。お菓子作りが趣味の大人しい女子だ。この前までは時々霊が見えていたらしいが、今はもう見えなくなっている。

 この4人が心霊研究部のメンバーで、全員同じ学年だ。

「いやあ、いいわねえ。エリートっぽい?」

「そうかあ?その割に、いつも面倒臭くて死にそうな目にばっかり合ってるけどな」

「エリートってのはそういうもんでしょ。ねえ、直君」

「いや、後ろの安全地帯にいるもんじゃないの?」

「ここって時だけ働いてあとはヒマ、じゃないのか?」

「なんだか、偏った想像ですねえ」

 和やかに昼休みは過ぎて行く。

「そう言えば、この前の文化祭で、大分黒字が出たのよ。欲しいものってある?」

「ストーブ。これから本格的に冬になって行ったら、寒いぞ、ここ」

「そうだよねえ。コタツと言いたいところだけど」

「あら。下にラグを敷いたら置けるんじゃないですか」

「なんか、出られなくなりそうだけど……ああ、いいわあ」

 取り敢えずは暖房器具という点で、一致した。

 大きく仕組みや取り巻く状況がかわっても、こんなものである。

 と、スマホが着信を知らせる。

「はい」

『やあ。俺だけど』

 蜂谷だった。

「オレオレ詐欺か」

『違うよ。蜂谷。わかってて言ってんだろ、もう』

 蜂谷は短く笑って、続ける。

『ほんの善意のお知らせ。

 夏に沢尻のやつが仕掛けた蠱毒。あれは失敗したけど、やり直して成功させたって噂だぞ。それの発注元がえらくきな臭いところで、なにかでっかい事を企んでるらしい』

「……何で、僕にかけてきてくれたんです、蜂谷さん」

『俺は術で気に入らんヤツをやる。でも、関係ないヤツまで一緒くたにやるのは気に食わないんだよ。別に俺は、テロリストでもなければ、大量殺人鬼でもないからな。

 んじゃ、そういう事で』

 言いたい事を言って、勝手に切る。

「蜂谷が何だって?」

「ん、蠱毒を完成させたやつがいて、何か、大きなことを企んでるらしい」

「大きなこと?」

 直は真顔で、少し考えた。

 今のこの時期に関係があることか?

「蜂谷からの挑戦状ってわけ」

「いいや、善意のお知らせだって」

 やつの善意は当てにならないんじゃないのかとは思うけど。

「何だろうなあ」

「まあ、先生に知らせておくけど……凄く、面倒臭い事になる予感しかしないな」

 休ませてくれよと、心の底から溜め息をついたのだった。






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