霧島さんのお家事情

時計ウサギ

第1話 僕の家族は

 「あのな、かなめ、実は私たち、本当の親子じゃ…ないんだ。」 

 ある日、夕食を食べていると、僕の母、霧島佳夜きりしまかやが、深刻そうな眼差しでこう言ってきた。

 「…」

 どう答えていいのかわからず、僕は思わず一瞬黙る。が、

 「いや、普通に知ってたけど…」

 こんなところでくだらない茶番に乗るのもあれなので、事実を話す。


 なぜ僕がこの状況を「くだらない茶番」と解釈したのか。

 それは、僕たちが本当の親子じゃない事実から逃げ出したいわけでもなんでもなく…中学1年生ともなるとさすがにわかってくるのだ色々と。

 例えば、。とか。


 と言っても、母にいちじるしい問題があるわけではない。

 少しショックそうな顔をする母に対し、

 「だから言ったじゃない。最近は中学生でも、そういうこと知ってるんだから。」

 と、僕のもうひとりの母ー陸野陽色くがのひいろが言った。

 

 ちなみに、もうお分かりだと思うが、僕が本当の親子じゃないということを知っていたのは、僕にいたからだ。


 「じゃあ要、私たちが本当の親子じゃないって知ってても、変に思わなかったんだな!」

 かやが、少しほっとした表情で言った。

 「そんなこと、思うわけないじゃん。血が繋がってようがいまいが、僕たちは親子でしょ。」


 だって、まだ僕が何も知らなかった頃、

父親がいないと馬鹿にされたことが悔しくて

「ママが二人いるから、寂しくない。」

 と言った僕に対して、表では

「陽色ちゃんはママの妹だから、ママが二人じゃないの。」

 なんて言いながらも、家族3人だけのときには

「陽色と私は姉妹じゃなくて、本当は”ママが二人”で合ってるんだよ。でもね、今は少し、このことはみんなに秘密にしておかなくちゃいけない。このことが知られてしまうと、大きな大きな”怪物”が、要のことを飲み込んでしまうからね。だけど、私たちは要のことが大好きだし、私たちはまぎれもない『家族』だよ。」

 と言っていたかやの、力強くて、優しくて、でも、どこか悲しい眼差しを、子供ながらによく覚えている。

 かやひいろは今までどんなに苦しめられてきたんだろう。

 偏見という”怪物”に。

 

 そんな風に今まで十分苦しんできた母たちに、僕まで世間に流されて「気持ち悪い」なんて思ってしまったら、それこそ”怪物”が僕を飲み込んでしまったことになるんだろう。

 それに、僕はこの二人が大好きだ。

 少し大雑把で男勝りだけど、しっかり会社で働いて僕たちを養ってくれるかや

 おっとりしていて、包み込むような優しさで僕たちを助けてくれて、料理の上手なひいろ

 この二人が、まぎれもない僕の母さんなのだ。

 僕の家族はーこの二人なのだから。

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