【短編】私は人間

田中ビリー

私は人間

 最初、私は泥だった。

 腐った水のようなにおいをさせ、膿のように粘着質な、汚い泥の塊だった。

 私のそばにはいきものが嫌うなにもかもか置いていかれた。


 私はそれを食べて育った。


 嘘を食べ、それに付着した虚栄心を食べ、優しさに似た何かを食べ、悲しみに似た何かを食べた。

 ほとんど全ては人間が排泄しては再び腹に溜めるものだった。

 純粋さを演じる幼稚も食べた。白濁の精を、流された経血を飲んだ。

 老いさえも口にした。

 男を食べた。女を食べた。

 干からび始めた赤ん坊の腐乱死体を丸ごと一匹たいらげた。

 やがて浜辺に打ち上げられた私は太陽を見た、そして雨水を浴びた。

 泥であった私の肌は肌の色をしていた。驚き、波紋に映る自身を覗いた。

 そこにいるのは人間だった。


 私は人間になったのだ。


 その様子は空からカラスに、波打ち際から蛇に、木の上からカエルに追われていた。

 三者は一様に薄汚いものを見る目で、しかし、人間になった私を嘆きもし、最後は嘲笑を浮かべるに至った。


 私は人間。

 私は私を笑った、彼らを食べようと捕獲する手段を考えている。

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【短編】私は人間 田中ビリー @birdmanbilly

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