ネトゲに登録したら、いつの間にかネカマになっていた
猫浪漫
ネカマス(ネカママスター)に至るまでの経緯
第1話 ネカマ・インストール
長いネット生活の中で、わたしは幾つかのHNを持つことになりました。その内の中で特に思い出があるのは『梓燕』という名前です。
それはわたしがまだ、うら若き頃に自身に名付けた仮初めの名前でした。
その当時、わたしには二年ほど付き合っていた未央という恋人がいました。
お母さんと二人で暮らしていた未央の家には、半分同棲しているのではないかと思われる位に通っていたものです。
その頻度といったら、二人でベッドに裸で寝ているところを、向こうのお母さんに笑われながら見られてしまうこともよくあったほどでした。
しかしこの未央は、日本で最も熱いフィンガーベースが弾ける女――と自称して憚らない、面倒臭いベース女子でもありました。
とはいえ、このような女と付き合う大変さを話すと、よくあるメンヘラ話になってしまうのは言うまでもありません。
従ってここではその多くを語りませんが、何かしらのホルモンに異常のあった未央は、万年生理を持続させているような心境にあるらしかったのです。
その具体的な被害のひとつに、未央は機嫌が悪くなるとその腹いせに、よくわたしに鉛筆を投げつけてくる――ということがありました。
そしてひどい時にはハサミが飛んでくるのです。更に怒りが盛り上がりを見せると、今度はハサミと鉛筆が同時に飛んできてしまうのです。
わたしは、鉛筆とハサミのいずれを避けるべきか――という選択を迫られる日々を送る内に、この半DV女子に会いたくないという気持ちが、積もりに積もって堪らなくなってしまったのです。
とはいうものの、「別れたら殺す」、「他の女と付き合ったら殺す――」などと云われている以上、どうすることもできなかったのです。
この満たされない気持ちをどうすればよいのかと、わたしは日々悶々としておりました。そうこうしている内に、わたしはあるオンラインゲームに出会う機会を得ました。
それは、『五筒開花(ごとうかいか)』というタイトルのゲームで、内容は「MMORPG」というジャンルのゲームでした。
アジアンテイスト溢れる世界の中を、そのゲームに登録している不特定多数の人と交流しながら冒険を進めていく――今では珍しくもないゲームの一つでした。
当時のわたしもその存在は知っていたのですが、実際にプレイしたことはありませんでした。
嫉妬深い未央によって、チャットそのものを禁じられていたわたしには、そもそもそのようなハイカラなものに縁がなかったのです。
しかしある日のこと、自宅での安心した独りの時間を過ごしていたわたしは、ふと「チャットがしたい――」という浮わついた衝動に襲われました。
それは無論、彼女の半DVに耐えきれなくなってきた反動――という事情もあったのだと思います。
従ってこの程度の背信は許されるものであると――わたしは自分に言い聞かせながら、チャットをすることに決めたのを憶えています。
それから色々なチャットサイトを覗いてみたのですが、たまたま目にしたネット広告の一つに、オンラインゲームのリンクが張ってありました。
そのタイトルこそが『五筒開花』だったのです。
アジアンテイストな雰囲気もいいし、どうせやるのなら普通のチャットではなく、こういうのもいいのかもしれない――。
わたしは未央から公布されたチャット禁止令を密かに破ることに決め、そのネット広告をダブルクリックしたのでした。
リンクの先は、『五筒開花』の公式ページになっていて、わたしはすぐさまアカウント登録を済ませ、『五筒開花』のアプリをインストールし、ゲームを始めました。
開始ボタンを押すと、すぐにキャラクター作成をするようにと指示が入りました。
わたしは基本的にむさ苦しいキャラは嫌いなので、女性キャラにすることにしたのです。
そしてその姿は言うまでもなく、ロリを選んだのです。なんといっても私の中でロリは正義でしたし、未央はロリには程遠い存在でしたから――。
またこのことは、わたしが二次元のロリに強く接触する契機となった筈です。
キャラが自分好みのロリに決まると、次に名前を決めることになりました。
せっかくのアジアンテイストなので、それっぽい名前にしようとあれこれと考えてしまい、少しここで時間を消耗することになってしまいました。
三国志が好きだったわたしは、やがてそこに登場する武将や文官などの名前を拝借することに決めました。
三国志には諸葛亮という有名な人物がいますが、この方の名前をあやかるのは三国志好きの中学生がやるようなことですから、わたしは彼の息子である諸葛瞻の字(あざな・通称名)である『思遠』にあやかろうと思いました。
しかしロリキャラなので女性らしさも出したいと思い、漢字を変えてみたのです。
そこで『梓燕』という名前が生まれました。読みはどちらも『しえん』です。
こうして無事ゲームを始めることが出来たのです。
何事も最初は奇妙な緊張があるものですが、その緊張はすぐに別の緊張へと変わりました。
なんとわたしは、ゲームを初めて十分も経たない内に、近くにいる男性キャラたちに囲まれ出したのです。
わたしは抵抗する術も持たない内に、『裏天国』という派閥へと拉致されることになりました。
MMORPGの世界の中には、『ギルド』というサークルみたいなものがあるものですが、『五筒開花』の場合は、『派閥』という名前で存在していたのです。
その時のわたしは、さぞかし田舎から上京してきて、すぐに怪しげなサークルに勧誘されてしまった大学生のようだったのかもしれません。
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