人生の宿題

勝利だギューちゃん

第1話

「あなたはだれ?」

「・・・僕・・・」

「そう、あなたはだれ?」

「・・・僕の名前は・・・」

「そういう事じゃないの?あなたはだれ?」

「僕・・・僕は・・・」

「わからないの?」

「・・・うん・・・」

「教えてあげるわ。そこにある鏡を見て」

「・・・あっ、これは僕じゃない。僕の顔じゃない・・・」

「いいえ、それがあなたよ。あなたの本当の姿・・・」

「うわ---------



チュン、チュン

小鳥のさえずりに、目が覚める・・・

「・・・また、この夢か・・・」

ここ毎日、この夢を見る。

(「・・・あなたは、だれ?・・・」か・・・

それにしても、あの子は何者だ?)


自分は何者か・・・

考えた事もなかったな・・・

これまでの、17年間・・・

なるようになってきたし、これからもそうだろう・・・

僕の人生に何かが起こるわけでもあるまい・・・


洗面所に向かい、鏡で自分を見る。

(確かに僕の顔だ・・・)

安堵のため息をつく・・・


身支度をして、高校へと向かう。

友達と通学途中で出会い、一緒に登校する。

教室のドアを開け、「おはよう」とあいさつする。

「おはよう」「宿題やったか?」「昨日のドラマ面白かったな」

いつも通りの、日常会話をする。


やがてベルが鳴り、教師が入ってくる。

教師も普通に授業をする。

特に何もない・・・


平凡な会話。平凡な日常。

それが全てだった。何も望まなかった。


いつも通りの学校生活を終え、帰路につく。

僕は帰宅部なので、下校時間は早い。

家は近くなので、徒歩で行ける。


その途中、同じ年頃の女の子と出会う。

制服を着ていると言うことは、この子も下校途中か・・・


僕は身の程はわきまえているので、ナンパはしない。

そのまま、通り過ぎた・・・


しばらくすると、僕を呼びとめる声がした。

「いつも会っているのに、挨拶もできないのね・・・」

「なっ・・・」

怒っているのか?呆れているのか?

僕は、この子を知らない。初対面なのは間違いない。


「わからない?」

女の子は後を振り向いたまま話を続ける。

「なら教えてあげる。こう言えばわかるよね・・・」

女の子はこちらを向き、口を開く。

「あなたはだれ?」


その瞬間に、鮮明に思いだしてきた。

そうこの子は、いつも夢に出てくる、あの女の子だ。

間違いない。

「あなたは誰?」

「僕は僕だよ」

いいかげんうんざりしていたが、近くにあった道路コーナーミラーを見る。

間違いなく僕が映っている。

「ほらみろ!僕は僕だよ」

「ならこの鏡を見て」

手渡れた手鏡を覗く。

「なんだこれ?僕じゃない」

そこには、明らかに別人の顔が映っていた。


「今度は、こっちの鏡を見て」

新たに手渡された手鏡を覗く。

「あれ?また僕じゃない。しかもさっきとは別人だ」


「今度はこっち・・・」

次々と手鏡を渡されては覗く。

その度に、違う顔が映っている。


「これは、からくり・・・」

「からくりでも、何でもないわ。全てあなたの心の姿よ」

「僕の・・・」

何が何だかわからない・・・


「結論からいうわ。あなたはいつも、仮面を被って生きている。

いくつもの仮面をね。あなたはまだ、本当の自分を知らないわ」

「君は、本当の僕を知っているのか?」

「少なくともあなたよりは、知っているわ」

一呼吸置いて女の子は答える。

「あなたのことをね・・・」


僕はもう、何が起こっているのかわからなかった。


「なら、僕は誰なんだ?教えてくれ」

女の子は首を横に振る。

「それはダメ。あなた自身で見つけないと意味ないもの・・・

もう、あなたの夢には現れない。

でも、信じてるよ。あなたなら見つけられるって・・」

そういって、僕の前から立ち去って行った。


追いかけようとして、角をまがったら、もう女の子の姿はなかった。

「本当の僕か・・・」


それから、数十年・・・

僕もすっかりおじいさんになり、臨終の時を迎えた。

あの女の子の事は、今でも思い出す。

女の子の言いたいことは何だったのか?

結局わからずじまいだった・・・


夜中にふと目が覚めた。

光が差し込んで、人影が見えた。

「・・・お迎えが来たな・・・」

そう思い目を閉じた。

「やあ、久しぶりだね」

遠い昔に聞いた声がした。そう女の子の声だ。

「うふ、すっかりおじいさんだね」

「君は変わらないね」

「そりゃね・・・でも、私の期待通りだったよ。

あなたは、本当の自分を見つける事が出来た。」

「僕は何も・・・」

「わからない?」

「なら、教えてあげる。向こうへ行ってからね」


そういうと女の子は僕の体に手をやる。

その瞬間、僕の魂は体から抜け出した。


そして、女の子と共に天に昇る。

「後悔はない?」

「ああ、ないよ・・・そうならないように、生きてきた・・・」

「そういうと思ったよ。あなたならね・・・」


女の子に一つの疑問を持ちかけた。

「君は死神なのか?」

「そんな、かっこいいものじゃないよ・・・」


やがて霊界へとたどり着く。

「約束通り話してあげるね。あなたという人間を・・・」


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人生の宿題 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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