第8話

 それを聞いた勇気は、溜息をつく。


「夢なんてみたことないや……」


 それを聞いた万丈が驚く。


「いやいやあるだろう?

 例えば小さいころ、ヒーローになりたかったとかさ!」


 万丈が、そう言うと勇気が再び溜息をつく。


「ヒーローかー

 僕は、ヒーローにはなりたくないな」


「どうしてだい?」


 今度は、正三が尋ねる。


「だって、年中無休で無給。

 クレームは沢山、そんな仕事には就きたくないよ」


「感謝されるって、金よりも得るものが大きい時ってあるんだぜ?」


 万丈が、そう言うと勇気が、窓に視線を向ける。


「だったらいいな」


「夢を見ようぜ!

 大輔さんも勇気もな!

 綾ちゃんには、なんか夢はねぇのか?」


「え?私ですか……?」


 綾が戸惑う。


「お向かえさん、夢の話をしているな?」


 玉藻が猫之助に尋ねる。


「うん」


「そ、その前に猫之助さんの夢が知りたいです……」


 綾が、そう言って猫之助の方を見る。


「僕の夢?」


 猫之助は、戸惑いながらそう言うと静かに回りを見渡す。

 みんなが、自分を見ている。

 そう思うとなんか緊張した。


「そうだなー

 正義の味方になりたいかな」


 それを聞いた大輔が驚く。


「正義の味方っすか?

 アンパンマンとかっすか?」


「んー

 ジャムおじさんかな?」


「ジャムおじさん?

 あのパンをやいているおじさんですか?」


 綾が、目を丸くさせている。


「そうだよ。

 お金のない世界で、パンを焼く。

 しかも、お腹の空いた子どもたちのためにひたすらパンを焼く。

 僕には、パンを焼く技術はないけれど……

 ジャムおじさんのように困った人に手を差し伸べれる。

 そんな大人になりたかったかな」


 猫之助が、そう言うと勇気が答える。


「今からじゃなれないの?」


「もう、そういう夢を語る歳じゃないしね……

 だから、就活のとき尊敬する人って欄はいつも空白だよ。

 流石にジャムおじさんって書けないし、前に書いたときに『ふざけるな』って怒鳴られたことあるしね」


 すると綾が答える。


「素敵だと思います。

 私もジャムおじさん目指します」


 綾が、照れ笑いを浮かべながらそう言った。

 みんなが、賑わう中、勇気だけが視線を逸し空を見上げる。


「勇気さんは、猫之助さんの意見には賛同できない?」


 キリが、そう尋ねると勇気は小さくうなずく。

 周りが静になる。


「うん。

 だって、いくら頑張っても感謝されるのはいつもアンパンマンだもん。

 あの大きな顔を運ぶバタコさんに感謝している人ってあんまり見ないしさ……

 ジャムおじさんも感謝されることはあるけれど、やっぱりみんなが好きなのはアンパンマンだからね……」


 すると、はるかが口を開く。


「そうね……

 でも、裏方の仕事ってそんなもんよ」


「裏方って夢ないっすね……」


 大輔も、溜息をつく。


「でもね、私は思うの……

 仕事に裏方って本当はないんじゃないかって……

 一生懸命やっていれば誰かが見ているし、一生懸命やっていれば結果が出る。

 裏でも前を向いてしっかりやっていれば、その人にとってはそれが表よ。

 中には、裏方の仕事をバカにする人いるけれど、そういう人は表じゃ生きれなくなる。

 一生懸命やっていれば、いつかは実ると私は、信じたいの……

 って、私が言っても説得力ないかー」


 はるかが、そう言って苦笑いを浮かべた。

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