第66話 事件発生 その2
2010年にナータの公式サイトを乗っ取ると、フミは一番に、サイトに自分の写真を載せて自己宣伝した。
それまでフミは、いつも生き神であるナータやシャンタムの名前を利用して弟子に自分のことを崇めさせていたが、ナータの公式サイトを手に入れて意気揚々としているフミの目的は、今度こそ「全日本人の女王」になることだろう。以前から小室比呂子が、フミは日本の女王だといっていたらしい。それは、すべての独裁者、カルトリーダーが目指す夢だ――自国の教祖、世界の支配者になりたいという……。
数年後、フミの名前は出ていないもののサイトが乗っ取られたことがネット上で公言されていることで「渚沙を訴えてやる」と寺院に乗り込んで来る。その時フミは「トラタ共和国と日本だけが世界を救えるのよ」と渚沙に
二〇一〇年に起こった、日本の自称聖人のスピリチュアル・グループが、トラタ共和国の生き神といわれる聖者の公式サイトをのっとったという事実を、渚沙は重く受け止めた。大変なことになってしまった――ナータの「日本の自然災害の理由」のメッセージについて考えてみると、フミ個人の問題で済まないかもしれない。以前から日本の国恥であったフミだが、とうとうカルトリーダーと呼ばれるに相応しい罪を犯したのだ。何故、フミたちを信頼してしまったのか――。
渚沙にとって痛恨の出来事であった。
ナータの公式サイト強奪事件の主犯、フミと
フミは渚沙の実家に何度も電話をしてきて、母親にまで不快な言葉を吐いて説教し、留守番電話にもしつこく言葉を残した。小室比呂子からは「あなたのやったことは犯罪であり、訴えます」という電報まで届いた。
正真正銘の犯罪者、二千万円横領犯の小室比呂子から、清く正しく、くそ真面目に正義感の強い自分が犯罪者扱いされるとは面白い話じゃないか、と渚沙は憤った。何故か金村千佐子は大人しくなったが、小室比呂子からの攻撃が激しく、渚沙への嫌がらせと脅迫は、永遠に止みそうもなかった。
渚沙はついにストレスに押し潰されそうになった。なにより、何も知らない可哀想な両親を巻き込みたくなかったからだ。フミなら金の力で何をするかわからず、渚沙を陥れて裁判を起こし、刑務所送りにするかもしれない。
とうとう渚沙はフミに、小室比呂子の暴挙を止めてくれるようにメールで丁寧にお願いした。それで騒ぎがやっと収まった。
小室比呂子が問題の当事者で、彼女を止めることはフミにしか出来ないと頼んだのだ。気を良くしたフミは、自分が命令しているのではないという印象を与えるために攻撃を止めさせたのだろうか。
実はこの頃、渚沙はまだ、小室比呂子がほぼ独断で渚沙に攻撃していると思い込んでいた。しかし、後にナータから、渚沙や寺院に対するクレームと攻撃はすべてフミの差し金、命令であることを明かされる。
間もなく小室比呂子は、渚沙に電話をしてきてこういった。
「みんなで協力してやりましょう。神のために、みんながひとつにならないといけないんです。渚沙さんも知っていると思うけれど、フミさんはいろんな神々と交信しているんです」
フミも弟子たちもやはり相当いかれている。
神々と交信しているのだから渚沙もフミを敬え、いうとおりにしてフミを手伝え、というように聞こえた。渚沙は適当に聞き流して穏便に電話を終えた。
こんな狂人の相手はとても無理だわ。私は精神科医じゃないのよ。それより、どうやってネットの強奪事件を解決すればいいの――渚沙は悩んだ。
知人である大阪の弁護士は一連の出来事を知り、実家に電報や留守番電話で攻撃してくることで「脅迫罪」で訴えましょうかと申し出てくれたが、渚沙は丁重に断った。狂人を矯正するためには、訴えることでは効果はない。ナータも望まないことだと渚沙は考えた。少なくとも今は……
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