第2話
「まだ生きてた」
「あっ、やっと起きた? お風呂で寝るなんて小学生じゃあるまいし、30代の大人ですかー」
眩しくて悲しい目覚めを喜ぶ君が目を覚まし、エアコンで冷えた体を温めようとする様に、ベッドの横の椅子で座った私の手を握る。
シングルベッドに2人と言うのは狭かったが、エアコンで冷え過ぎた体を温めるには、確かに良かったかもしれない。
机の上に置いてあった紙には驚いたけど、それを問い質す勇気もない。
だって、あまりにも日現実的じゃないか。君が今日死んでしまうなんて。
この生まれた日を命日にするなんて、何て皮肉で滑稽なのだろう。
私たちの間には本当に色々あった。
趣味の違いにどちらも自分勝手と言う事。
そしてある日、「君が音楽を続けろ」と命令を下す。そんな一方的な発言の所為で、国民的なバンドグループが解散し、私が仕事に追われる日々になった。
最初はこんなので上手くいくのか分からなかったけど、君のサポートのお陰でここまで来れたんだから、間違いじゃなかったんだろう。
「本番お願いします」
「分かりました」
突然入った仕事の本番に呼ばれ、今話題のアーティストとして出演する事になった。
休みを取ると言ったのに、今後売れる為に必要と判断したのか、マネージャーが勝手に仕事を入れていた。
❀
「お疲れ様でした、今日この後用事があるので失礼します」
「あれ、この後の打ち上げ参加しないの?」
「はい、すみません。今日は外せない用事があるのでごめんなさい」
「待って下さい、俺が送って行ったら駄目ですか? 貴女が居ないなら、打ち上げなんて行く意味がないですし」
後ろから手を掴まれて、今人気急上昇中の、世間からはイケメンシンガーと呼ばれている子に引き止められる。
「送らせて下さい、タクシー代が掛かりますから」
「分かったから、早く行かないと。もう1時間しかないから」
「分かりました」
彼の後ろに続いて地下の駐車場に向かい、外国の人気車の助手席のドアを開けて、彼が私に促す。
後部座席に乗ろうとしていたが、時間を無駄にしない為に素直に従い、助手席のシートに座る。
運転席に回った彼は車を出し、警備に会釈をして駐車場から出る。
「南公園までお願い」
「……」
「ねぇ? 何で逆の道に……」
「合っていますよ、俺の家まで……うぉ!」
突然ハンドルを切った彼は反対車線に飛び出て、急ブレーキを掛けて停車させる。
「どうしたの?」
「車椅子が、なんでこんな道の真ん中に」
「おい、どこに連れてく気だ。それに君も危機管理が不十分じゃないか?」
突然目の前に現れた君は、車のドアを開けて私に手を差し出し、その手を取った私を引き寄せる。
頑張って強気を保っていたが、張り続けていた虚勢も尽きかけた頃、いつも差し出される手がそこにはあった。
「なんなんだお前危ないだろ、それに何で貴女はその男に……俺の方が顔も良いし、車椅子なんて要らないし……」
「確かに子どもみたいに拗ねるし、私たちの間には色々ある。頭も悪くて足も動かない、顔はかっこいいけど貴方には負ける。でもね、不思議な程この人を好きなままで居るんだよ」
「って訳だ、今売り出し中で人気急上昇の誰君だったっけ。残念だけど死ぬ時まで一緒に居るつもりだから……何言ってんだろ、顔が熱い」
柄にでもないことを言い出した君は、ここまで来たタクシーを呼び、私を先に車内に乗せて、自分は運転手の補助を借りて隣に座る。
はははっと抜けた様に笑い始めて、ぐったりとして私の肩に頭を乗せる。
「もう身体が動かないや、昨日までは調子良かったのに」
「そっか……運転手さん。出して下さい」
ゆっくりと発進したタクシーは彼を置き去りにし、どうせまた鍵を開け放したまま飛び出して来た家に帰る。
料金を支払った君が車椅子に座り、意外としっかりと施錠されていた鍵を開け、私の肩に手を回して立ち上がる。
「君が隣に居ると案外立てるものだ」
「急にしおらしくなって気持ち悪い」
「君はもう少し僕を見習え、僕が行かなかったらどうなってたか」
「誕生日だね……あ、ケーキあの公園で全部食べたんだった」
「ちょっ、待ってるから急いでよ、あと10分!」
君をベッドに放り投げて靴を履き、急いで近くのコンビニまで走り、代わりを買いに行く。
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