雲散霧消‹うんさんむしょう›

手首には、あれから傷を付けていない。


例えて言うと、ただの一瞬、『何者でもなくなる』になれるだけのものだった。


私には意味がなかった。


その時やっと分かった。私はこの世界ここに居たくないのだと。それは、多分、死を意味するのだと。



尊い命が失われたニュースが流れると、私の命をあげられるのなら、と願った。

悲しみにくれる家族達、生きたいと強く願っていた人達。

私より、その人達が生きていた方が、良いに決まっている。



私が居ても居なくても同じだ。世界は何も変わらない。


私たちは煉瓦の壁にすぎない。一つの煉瓦が崩れても、周りの煉瓦が少し傷つくだけで、後は問題ない。



私には何もない。地位も名誉も、才能もお金も、安らげる家族も、自分をさらけ出せる友達も、恋人も。そして生きる意味も。



世の中の人に聞いてみたかった、

「あなたは何のために生きているんですか」と。

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