屋上屋‹おくじょうおく›を架す

大学は自由だった。


ヘラヘラしていれば、友達もできた。


カラオケだの、クラブだの、飲み会だの、サークルだの、旅行だの、何だのと、所属する為には、とにかくお金がかかった。



家族がいる時に帰らずにすむので、夜のアルバイトは都合が良かった。


ヘラヘラしていれば、お金が入った。


特に、偉そうな客には気に入られた。ただのバカな女子大学生だったからだろう。


偉そうな客は、皆小綺麗なスーツを着ていた。



母は昔から、「金がない、金がない」と事あるごとに言っていた。


だからうちは貧乏なんだと思っていた。


その言葉を聞くと、自分が居てはいけない気がして、頭の後ろが暗くなっていった。



高校からアルバイトをして、親からはお金を貰わなくなった。


母は何も言わなかった。ただ「金がない、金がない」と言っていた。


頭がどんどん暗くなるので、学費の足しに、とお金を渡した。



私も気がつけば「お金が足りない、足りない」と暗い頭で唱える様になっていた。お金がないと、心がどんどん荒んでゆく。



そう言えば、父の身なりも小綺麗だった。


家にあまりお金を入れず、自分に使っていたのだろう。


父も家庭の事を考えず、虚栄を張っているだけだった。



そして、私も同じ様なものだ、と思った。


心の暗さを埋める為にお金を稼ぎ、使い、どうでもいい大学に行き、何も身にならない事をしている。本当にヘラヘラした、何も考えない生活だった。



屋上屋を架す…屋根の上にさらに屋根を架ける。むだなことをするたとえ。

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