この先にあるものは

カキ・クケコ

第1話

少女は絶望していた。

くだらない話題で盛り上がる今のクラスメイト・時刻表などまるで関係ない路線バス・変わり映えのない地元の風景・何かと口うるさい両親……とにかく身の回りのもの全てに対して絶望していた。

そして何より自分自身に絶望していた。


少女の名は内田真実。「真実」と書いて「まみ」と読む。何のひねりもない、そのままの読み方だ。「物事の真実を見極められるように」との願いが込められているということは、小学生のときの宿題で出された「名付けの由来を聞いてみよう!」というもので母親に尋ねた際に、初めて知った。

ありふれた名前に対しても、少女はまた、嫌気が刺していた。


(私には何の夢も希望もない。生きている意味がわからない。将来のことなんて、何もわからない。)

少女の心の中には常にこんな思考がこびりついていた。


少女は地元の私立高校に通う高校2年生だ。第1希望の公立高校が不合格だったため、いわゆる滑り止めの高校に入学した。

中学生の頃は学年トップの成績であり、進学校と呼ばれる公立高校を目指して勉強に励んでいた。まだ見ぬ高校生活に対しても人並みに夢や希望を抱いていた。

しかし少女は落ちた。入学試験という自分の実力がそのまま結果に結びつく試験に負けたのだ。思い描いていた高校生活は少女の手からするすると零れ落ちていき、同時に敗北感や劣等感、屈辱、悲しみ、やり場のない怒りが影となり常に少女の後ろに付き纏うようになった。

入学することとなった私立高校の制服は、かわいいと評判が良かった。落ち着いた赤がきれいなリボンにチェックのスカート。特徴的なキャメルブラウンのブレザー。この制服に憧れて志願する者もいるようだったが、少女にとっては微塵も魅力を感じなかった。少女は公立高校の「地味でダサい」と言われている、無地の深い紺色のブレザーを着たかったのだ。


現在の成績はクラスで上の下といったところだろうか。クラスメイトのことを「公立高校に行けなかった負け組」もしくは「ろくに勉強もせずに高校に受かった怠け者」と、どこか見下している節があった。しかしそんな中でもトップにはなれない自分自身に対して最も憤りを感じていた。


少女は人並みにやっていては平均以下・人の2倍、3倍努力してようやく平均以上になるような、要領が悪く不器用で、誰よりも努力を惜しまない性格だった。


それ故に人付き合いは苦手であり、高校に入ってから親友と呼べる友人は出来なかった。多くのクラスメイトとは挨拶程度の付き合いだった。(もっとも少女自身がクラスメイトを見下していたことも影響しているが。)


そんな中でも、ある1人のクラスメイトだけは何かと声をかけ続けてくれていた。

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