第8章 子どもでも、ホントの本気で恋してた
第15話 子どもでも、ホントの本気で恋してた
あの日から二週間が経った。
まだ少し気持ちが落ち着かない時もあるけれど、それでもお姉ちゃんたちのことを受けとめなければいけないと思えるようになった。そのためにも――。
「ねえ、お姉ちゃん」
結婚式はもう少しあとになるけれど、先に入籍だけして、たもっちゃんと一緒に暮らすことにしたらしいとお母さんから聞いた。
そのため、今週末土日の休みを利用してお姉ちゃんは荷物の整理に帰ってきていた。
「なにー?」
「あのね、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
隣の部屋を除くと、随分といろんなものが転がっている。CDに雑誌、それに卒業アルバムやセーラー服まであった。
「そんなのまで持って行くの?」
「ち、違うわよ。さすがに持って行かないって」
「よかった。持って行くって言ったらどうしようかと思った。んじゃ、何でそんなの出してるの?」
「ちょうどいいから、この機会にいらないものを処分しようかなって思って。……ねえ、この服いる?」
「あ、欲しい」
引き出しから何着か服を取り出すと、お姉ちゃんは私に手渡した。
「ありがとう」
「いいえ。――で、どうしたの?」
お姉ちゃんの言葉でハッと我に返る。思わず、お姉ちゃんのペースに乗せられてしまっていた。
ふーっと息を吐くと、私は口を開いた。
「あ、あのね……」
考えていた。これからどうしたらいいか。どうやったら、私の中の感情を、過去のことへと変えることができるか……。
そして、思いついたのだ。それが――。
「しょうがないわね」
私の話を聞くと、お姉ちゃんは今回だけだよ、と言って受け入れてくれた。
「ありがとう」
そう言った私に、困った顔でお姉ちゃんは笑った。
スマホに表示された日付をチェックする。十月二十九日。たもっちゃんの誕生日の前日だ。
髪型は変じゃないかな……。家を出る前に何度も鏡で確認したけど、不安になってカバンの中から手鏡を取り出すと、全身を念入りにチェックする。
うん、大丈夫。変なところはない。髪も跳ねてないし、リップも落ちてない。
今日のために用意したとびっきり可愛いワンピースに身を包んだ私が、鏡の中で緊張した顔をしていた。
たもっちゃんは似合ってるって言ってくれるかな……。
そんなことを思いながら待ち合わせ場所へと向かうと――そこにはきょろきょろと待ち合わせ相手を探すたもっちゃんの姿が見えた。
「……たもっちゃん!」
「あれ? 美優?」
名前を呼ぶと、たもっちゃんが振り返る。そして――突然現れた私に、驚いた表情を見せた。
「偶然だな。俺、今ちょうど――」
「偶然じゃないの」
「……え?」
「ここに来たのは、偶然なんかじゃないの」
「偶然じゃないって……あ、真尋から聞いてきたんだな。俺たち今日は――」
「お姉ちゃんなら、来ないよ」
「――どういうこと?」
私の言葉に混乱したのか、たもっちゃんは眉間に皺を寄せて考え込んでしまった。
「来ないって……。だって今日は真尋から誘われて、新居で使うものを買いに行くって……」
「お姉ちゃんなら、今頃は家で部屋の片付けをしてるよ」
「……なんで」
「どうしても今日たもっちゃんと一緒に出掛けたかったから、お姉ちゃんにお願いしたの。たもっちゃんを誘い出してほしいって」
「一緒に出掛けたいのなら、こんな回りくどいことせずに、そう言ってくれれば……」
「それ、は……」
思わず黙り込んでしまう。やっぱりこんなふうにだまし討ちみたいなこと、しちゃダメだったんだ……。
でも、絶対に今日会うためにはお姉ちゃんの名前を出すことしか思いつかなかったんだもん。私が会いたいって言ったって、絶対会えるとは限らなかったから――。
「……で? それで、そんな格好してんの?」
「え……?」
「俺に会うために?」
「う、うん……」
「何だよそれ! 美優、可愛いところあるじゃん」
私の頭をぐりぐりと撫でると、たもっちゃんは笑う。
「怒ってないの……?」
「別に、ビックリしただけで怒ってなんかないよ」
「でも、さっき溜息……」
「いや、あれは……美優が可愛い格好して現れるからさ、てっきりデートだと思って。相手は誰だ!? って思ってたら、まさかの俺かよ! っていう状況についていけなくて、つい」
「……何それ」
思わず笑ってしまった私を見て、たもっちゃんは笑うなよと言いながら、自分でもおかしくなったのか笑い出した。
「あー……で?」
「え……?」
「何かあったから今日呼びだしたんじゃないの?」
「あ……」
そうだ、私は――。
「たもっちゃん」
「ん?」
「今日一日、私とデートしてください」
私の言葉に、たもっちゃんは笑った表情のまま固まった。
「デート?」
「そう、前に映画に行ったとき言ってたでしょ? また来ればいいじゃんって。でも、結婚したらこんなふうに二人では行けなくなるだろうし」
必死で考えた言い訳を読み上げるように言うと、それもそうかとなぜか納得した様子でたもっちゃんは頷いた。
「何か見たい映画あるの?」
「それなんだけど――映画じゃなくてもいい?」
「それはいいけど、どこに行くんだ?」
「遊園地に行きたい」
私の言葉にたもっちゃんは、少し驚いた表情を見せた。
あのあと、ちょっと待ってていうとパーキングに止めてあった車を取って、たもっちゃんは戻ってきた。
「お待たせ」
二回目の助手席は、前回よりももっともっとドキドキする。
運転席をチラリと見ると、真剣な表情でたもっちゃんがハンドルを握っていた。
その姿に、胸がキュッとなるのを感じて、慌てて視線をカーナビへと移した。
目的地である遊園地へはどうやらあと少しで着くみたいだ。。
でも……これで本当によかったのかな、と私は今更ながらに不安になった。
本当はもっと大人っぽいところとかお洒落なところに行こうと思っていた。でも……。
「六本木ヒルズ? ダメダメ、そんなところ行ってなにするのよ」
あの日、お姉ちゃんにどこに行く予定なの? と聞かれ、考えていた候補地を告げると、呆れたように先の言葉を言われた。
「じゃあ……!」
その後も、私が候補としてあげるところはことごとく却下されていく。
もしかして、本当は行かせてくれる気なんかなくて、こうやって反対することで、行くのを防ごうとしているんじゃないだろうか、そう邪推してしまう私に、お姉ちゃんはそんな顔しないのと苦笑した。
「だいたいね、そういうところは雰囲気を楽しめる大人が行くところよ」
「…………」
「それは、私が子どもだから……? だから行っても意味がないってこと?」
確かにそうかもしれないけど、でもたもっちゃんと一緒なら……。
私の言葉に、お姉ちゃんは違うわよ、と首を振る。
「……私もね、あんたぐらいの年の頃に行ったことがあるのよ。似たような場所に」
「え……?」
「でも、何か買おうにも高いし、周りは大人ばっかりで変に緊張するし、結局疲れて帰ってきただけだった」
「お姉ちゃんにもそんな時代があったの……?」
「あるわよー。だから、こういうときは――こっち」
そう言ってお姉ちゃんが指さしたのは、床に転がっていた雑誌の一ページだった。
「こっちの方がきっと楽しめると思うわよ」
お姉ちゃんはニッコリと笑うと、自信満々にそう言った。
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