エリックとダミアンの出会い

第2話

 エリックはラストネームが無い。


 何故かって? 分からないからだ。親が誰なのか。

バーサーカーの凱旋を見に行こうと、家を壊す勢いで扉を開け、市場、そして路地を抜け⋯⋯


出来るだけ早く、そして、出来るだけいい位置で。


それしか考えてなかった。


もちろん、養母は既に呆れている。


「エリック! 貴方はバーサーカーになれる訳ないわよ?」


ほら。また言われた。わざわざ後を追ってきて言うのだ。


「うるさい!」


「エリック⋯⋯あんまり困らせないで」


「イザベラ、本気だよ?」


「そうなんだ? じゃあ、後1年で兵士になれたら認めてあげる」


「なら、先生をつけてくれるんでしょ?」


「馬鹿かい? うちにそんなお金はないよ」


「それなら無理に決まってる」


「なら、諦めるんだね」


「絶対にそれは嫌だ!」


俺は家と正反対の方向に走る。


「それなら、二度と戻ってくるんじゃないよ! エリック!」


「戻るもんか!」


 周りはバーサーカー達の凱旋に夢中で誰もこの騒動に気づかない。


その中でこの小さな争いを聞き分けた男が1人居た。


そう────それが未来の彼の師匠、ダミアン・アデールであった。


彼は元々、偵察兵だった。しかし、同級生であり親友だったポールが俺をかばって死んだ。


「ポール!」


「エリックを助けてくれ⋯⋯」


そんな遺言が今も頭をよぎる。


 彼の仇をうたなければならない────そしてバーサーカーになった。


しかし、


────見事に何も出来なかった。


俺ができたことは後ろで見守るだけ。


あとは、1人のリーダーと数人ですぐに制圧してしまう。中には彼女に恐れをなして、撤退する輩までいた。


そのリーダーとはジャンヌ・ダルクである。


今後彼女は居なくなる。


彼女は英雄となったから死ぬと思っていた。


大体今までもそうだ。何か功績を挙げて英雄と呼ばれた人間は誰かに殺されている。


彼女もその1人だった。


凱旋よりも3日前の戦いで何者かによって暗殺された。


今回はなんとか勝ったが、城内の統制は崩れていた。


彼女が死んで、軍はどんどん陣地を狭めていく一方になった。


「・・・早急に何とかせねばな」


軍をすぐにやめ、今までの貯金で孤児院と養成所を作った。そして目をつけたのが、エリックだったのだ。


偵察兵として訓練すればきっと最高の兵士になる。


「君、偵察兵になる気はないか?」


「ない。バーサーカーにしかならない」


「・・・そうか」


彼の姿はポールの若い頃にそっくりだった。


彼も身体が細かったが、立派なバーサーカーになった。


「エリック、よく聞くんだ」


「これからは戦いを無くさなければならない」


「で? だから言って・・・」


俺は、口に指を当て、続けた。


「偵察兵がバーサーカーになる時代がくる」


「・・・! そんなわけない・・・」


「いや、絶対に来る」


 これがバレていたら、絶対に反逆罪で殺されていた。


「・・・分かったよ。俺、偵察兵バーサーカーになる」


「なら、ついて来い」


「うん。よろしく。Mr.ダミアン」


「あぁ、エリック。よろしく頼む」


 それが最初の出会いだった。


しばらく路地を歩かされて、最期は彼にぶつかった。


「いてっ」


「前を見て歩けよ・・・」


「着いたの?」


「あぁ」


「見てみろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る