お妃様と鏡とフィギュアスケート
青樹加奈
お妃様と鏡とフィギュアスケート
むかしむかし、真っ白な雪が降り積もった華麗なお城の一室で、お妃様が鏡に尋ねました。
鏡にはお妃様の美しい姿が映っています。高く結い上げた金色の髪、アイスブルーの瞳、白い肌、黄金のドレスを身に纏い、すらりとした姿で立っていました。
「世界で一番美しいのは誰?」
鏡はお妃様が作った魔法の鏡。世界中の鏡、水、金属に映るすべての物をしっていました。
鏡が答えました。
「それは、氷の国の王子、羽●結弦」
「ええ! 妾が一番ではないのか?」
「はい、世界で一番美しいのは、羽●結弦」
「で、では、妾は二番目なのじゃな」
自身の美貌に自信があったお妃様が言いました。
「いいえ、二番目ではありません」
鏡は即座に答えました。
「なんと、一体誰が妾より美しいのか?」
「ザ●トワ選手、メ●ベージェワ選手、コ●トナー選手」
「な、なんと、フィギュアスケートの選手ばかりではないか! さては、そなた、フィギュアオタクだな!」
お妃様が両手を握りしめ、わなわなと震えながら言い放ちました!
「それが何か?」
鏡が平然と答えます。鏡の表面がぴーんと張って、まるで、ガラスのようです。当たり前ですが!
お妃様は「何故、鏡がフィギュアオタクになったのだろう?」と考えました。
「しまった! あの湖はスケート場になっていたのか!」
お妃様は魔法の鏡を作る時、山の湖の氷を使ったのですが、湖はスケート場になっていたのでした。
スケート場の氷を使ったのが、鏡がフィギュアオタクになった原因のようです。
「くやしい、妾は美しいかどうか知りたいだけなのに! ええい、苦労してしょうもない物を作ってしまった。この上は一度割って作り直すしかないか、いや、割ってもスケート場の氷の部分は分離出来ぬ。うーむ、どうしたものか」
鏡がその表面をさざめかせて、お妃様に助言します。
「別に鏡に認められなくてもいいんじゃないですか? 違います?」
お妃様はきょとんとした顔をしました。
「えーっと、どういう意味だ?」
「ですからね、鏡が綺麗って言わなくたって、お妃様は綺麗ですよ」
「あほか、おまえは。そんなことはわかっとるわい!」
いきなり関西弁で応酬するお妃。
「おまえなあ、何の為に世界中の鏡、水、金属に映るすべての物を知るように作ったと思うねん。え! わてが一番かどうか、確かめるためやないか! 第一、わてが美人なんは、いわれなくともわかっとるわい」
お妃様は腹が立って仕方ありません。
自分のミスで魔法の鏡がおかしくなってしまったので、誰のせいにする訳にもいかず、よけいに腹が立つのです。
仕方が無いので、お妃様はドレスを脱ぎ捨てフィギュアスケートの衣装に着替えるや、山の湖のスケート場に行って練習を初めました。
「こうなったら、フィギュアスケートの選手になったる! この魔法のスケート靴さえあれば、トリプルアクセルも四回転もあっというまに飛べるんやでー!」
魔法のスケート靴は氷の上でお妃様を華麗に舞わせます。
曲は、デ●ズニーアニメ「白雪姫より 『ハイ・ホー』」
コミカルに華麗に七人の小人を演じるお妃。
しかし、基礎体力や柔軟性のなかったお妃様は、ラストのビールマンスピンですっかり力を使い果たし、滑れなくてなってしまいました。
氷の上に倒れたお妃様をお付きの者が慌ててお城に運びます。ベッドに横たわったお妃様が弱々しく鏡に向って尋ねました。
「どうじゃ、妾は美しかったか?」
鏡は考えました。弱ったお妃様を前に本当の事は言えません。
なんといったら、嘘をつかずに済むでしょう。
「お妃様、お妃様のフィギュアスケートの演技はまだまだです」
お妃様は弱々しく笑っていいました。
「魔法の靴を使っても、だめであったか」
「はい……、ですが、お妃様」
鏡がキラキラと輝きました。
「お妃様は、この国一番の美女でいらっしゃいます」
「なるほど、地域限定の美女。いうなれば、ミスアメリカみたいな」
「いえ、そこまでは。どちらかという、ミス白菜とか、ミス大根みたいな」
「妾が野菜と申すか!」
怒りのあまり、元気になったお妃様は、やっぱり鏡を壊しましたとさ!
ちゃんちゃん!
(おしまい)
お妃様と鏡とフィギュアスケート 青樹加奈 @kana_aoki_01
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