心を映す鏡

勝利だギューちゃん

第1話

近所に、少し大き目の児童公園がある。

最近の子供は、外では遊ばないようで、児童の姿は殆どない。

変わりに、若者や中高年くらいの男性を見かける。


「みんな暇なのか・・・」


心の中で、そうつぶやく・・・

まあ、俺も人の事は言えないが・・・


ベンチに腰をかけ、コンビニで買ったおにぎりを口にする。

俺の昼食だ・・・


ある日を境に、ひとりの女性が来るようになった。

いや、女の子と言ったほうがいいな・・・

どう見ても。女子高生だ・・・


その女子高生は、公園にいる男性ひとりひとりに、鏡を見せて行った。

そして、「ありがとう」というと、その男性から離れて行った。


(なんなんだ・・・)

意味がわからない。最近の若いもんは・・・

って、俺も歳を取ったな・・・


(まあ、俺には興味ないだろう…)

そう思っていた矢先、彼女が俺に近づいてきた・・・


「お時間、少しいいですか?」

「ああ、構わないよ・・・」

「この鏡を、見てくれますか?」


そう言われ、俺は鏡を除く。

次の瞬間、彼女のひとことに俺は驚きを隠せなかった。

「あなたこそ、私の求めていた人です。一緒に来てください」

「なに?」

とんでもない事をいう子だな・・・


「忙しいんで・・・」

立ち去ろうとした時、彼女は俺の手首をつかんだ・・・

「嘘ですね。就職活動中でしょ?」

その通りだ。何でわかるんだ?この子は・・・


俺は不信感が先にたった。

当然だろう・・・いきなり鏡を見せられて、「来て下さい」なんて、

どう考えも、おかしいと思う。

いいとこ、どっきりだろう・・・


「詳しくは、後で話します。とにかく来て下さい」

どうかんがても怪しいのだが、どうせ暇だし付き合う事にした。


そして彼女に連れて行かれたのは、カフェだった。

向かい合わせに腰をかける。


注文をしようと店員を呼ぼうとした時、

「いいんです。ここは、そういう店ではないんで・・・」

じゃあここはどこなんだ。もしかして・・・

「今、風俗嬢かと思ったでしょ?私は未成年です。働けません。」

なんで、わかるんだ?俺は不思議でならなかった。

この子がエスパーか?


「私は、エスパーではありません。まずはこれを見て下さい。

さっき、あなたに見せた鏡です。」

「えっ?」

鏡を覗き込む。

そこには、俺の姿はなかった。

映っていたのは、白い背景に無数の傷があった。


「あなたは、とても純粋な方ですね。そして、とても繊細・・・」

「それが、何か?」

「私が、いえ私たちが求めていたのは、あなたのような方なのです。」

彼女の言葉に、俺は激しく動揺しているのがわかった。


「君は一体?」

「申し遅れました。私の名前は、面土みると言います」

「面土さん・・・?」

「みるで結構です。さんとかちゃんとかは、付けなくていいです」

「わかった、みる。俺は・・・」

「糸井真さんですね」

「どうしてそれを・・・」

俺は驚いた。なんでわかる。

ここまで来ると、恐怖を通り越して、興味が先に出る。


「真さん、そろそろ本題にはいります」

「本題?」

俺は、もう成るようになれとしか、思えなかった。


「私たちの、組織はいろいろな事情で、自分の殻に閉じこもっている人の、

セラピーをする仕事をしています。」

「ああ」

「その為には、他人の心の傷みの分かる人、あなたのような方が必要なのです」

「真さん」

「お願いです。力を貸して下さい」


考える必要はなかった。

かねてより、誰かの力になりたいと思っていた。

「わかった・・・協力するよ・・・」


「えっ」

以外な答えだったのか、彼女のほうが驚いた。

「いいんですか?」

「構わないよ」


彼女は微笑んだ。

そして、口を開いた。

「やはり、あなたは純粋で繊細、そして優しい方です」

そういって、俺の手を握ってきた。

とても、温かい・・・


「じゃあ、行きましょう」

そういうと、さっきの鏡を取り出した。

「しっかり掴まっていてくださいね」

そういうと、鏡の中に吸い込まれていった。


それからどうなったかは、覚えていない。

ただ一つ言えるのは、今の生活は意外と満足していることだ。


みるは、いつでも俺のそばにいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心を映す鏡 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る