#010 神様になる準備が整っちゃった!
「お、やっと帰ってきましたね~!」
しばらくの怒涛の末、俺とウェヌスはアルテナ神殿のエントランスに戻った。
その時、外で俺たちの帰りを待っていてくれたアルテミスがそう言って、周りの女神たちも笑顔で出迎えてくれている。
すると。
「……そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はアルテミス。この天界の管理人にして、各部署を管轄している“一級神いっきゅうしん”でございます」
軽く会釈を交えながら、そう自己紹介を切り出したのは緑色のロングヘアーが特徴な黒縁メガネのお姉さん、アルテミスだ。
そういえばアルテミスとは初対面の時からいろいろあったせいで、ゆっくりと話す機会がなかったな。
そこで俺は気になる事柄について質問してみる。
「ここに来た時から思っていたことなのですが、ここの女神たちはやたらと忙しそうにしていましたよね? そこで、女神ってどんな仕事をしてるんですか?」
そう。
俺が女神に抱いていたイメージは、お日様の暖かな天界でハーブを引きながら紅茶をたしなんでいるといったものだったのだが……ここの女神たちは違っていた。
それぞれの女神が仕事に追われ、休む暇もなく働いていたのだ。
そりゃ、疑問に思うってわけで。
「そうですね。普段は地上人の運気の幅が、大幅に上昇したり減少したりしないように、常に均衡を保てるように我々が操作しているのですが……」
そしてアルテミスはメガネを外して。
「今回は女神の力を持ってしても運気が操作できない地上人、つまりは女神審議会で選ばれたカルマさんを救済すべくして地上人から規定量オーバーの運気を根こそぎ徴収したわけですが……そこまでは仕方のないことなのですが……」
右手に持ったメガネを、彼女は思いっきり投げ捨てながら。
「……あのクソガキ六大天使長様め! あの人は小さい頃からいつもいつも惰弱で、私を含めたここにいる皆さんに迷惑をかけてばかりで……少しは真面目に仕事をして下されば……」
そうやって日頃から積み重ねてきた鬱憤を晴らすかのごとく、突如として人格が豹変するアルテミス。
気になった俺が、ウェヌスにカルナのここでの行いや、アルテミスとの関係性について聞いてみると。
「……そうね。あの子は基本的には何もせずにだらけているだけね。そんでもって、意外に思えるかもしれないけど、アルテミスはカルナの従姉妹いとこなの。いつもはああやって怒ってるから分かりにくいけど、アルテミスはカルナのことを凄く大事に思ってるのよ?」
「なるほど。なんか素敵だな」
「ふふっ。そうね」
そして微笑むウェヌスの傍ら。
「……取り乱してしまって、申し訳ないです」
アルテミスは、はたと気を取り戻したようだ。
そこで俺はもう一つ気になっていたことを尋ねてみる。
「いえいえ大丈夫ですよ。それと質問攻めで悪いのですが、さっきから聞こえてきた“一級神”や“六大女神”って何のことですか?」
そう。
実はカルナと初めて会った時にも疑問に思っていたことなのだが、これらの単語にはどういう意味があるのだろうか?
女神の役職なのかな?
いやでも、役職ならアルテミスの言っていた各部署の方が適解だな。
すると。
「そうですね……まずは女神は三種類の階級に分けられることを知っていただきましょうか。一つ目は“三級神さんきゅうしん”。こちらは女神見習いのようなものですね。二つ目は“二級神にきゅうしん”。この階級に至るとまずは各部署に配属され、本格的に仕事を行うようになります。そして三つ目は“一級神いっきゅうしん”です。こちらの階級については現在私一名しかおりませんので、先程の説明で事足りるかと思います」
なるほど、分かりやすい。
つまりは三級神→二級神→一級神へと階級が上がっていくわけだな。
簡単に言うと、アルバイトから平社員へ、平社員から部長へと昇格していくのと、同じ理論という解釈で良さそうだ。
続いてアルテミスが口を開いて。
「最後に、私たち女神には最高権力者が存在します。それは先程の質問にあった“六大女神”のことです」
最高権力者か。
企業で言うところの社長だな。
ふむふむ。
……いや、ちょっと待て。
「六大女神はその名の通り、六人の女神から構成されます。それは“悲哀ひあいの女神”を始めとした“寵愛ちょうあいの女神”、“豊穣ほうじょうの女神”、“神癒しんいの女神”、“果報かほうの女神”、“再臨さいりんの女神”……以上の六名です」
なるほどなるほど。
この天界の女神にはそんなすごい奴らが六人もいるのか。
……いや、ちょっと待て。
「もうご存知の通り、カルマさんの隣にいるウェヌスが豊穣の女神に当たります。今天界にいるのは……確かウェヌスを合わせて三人ほどといったところですね」
先程から、ものすごく丁寧に説明をしてくれるアルテミス。
それにウェヌスが六大女神なのには納得がいく。
だが一人だけ、俺が疑問に思う人物がいる。
それは。
「……あ、それと言い忘れていましたが、六大女神にはそれらを束ねる長が存在します。それは……こういっては恥ずかしい次第ですが、カルナがその長に当たります。“六大女神長ろくだいめがみちょう”ですね」
「それだッ!!」
自分の種族の長が、カルナのようなヒキニートだという事実を口に出し、改めて羞恥の念を覚えざるを得ないアルテミス。
まったく、同情するぜ。
そこで俺が、なぜカルナが六大女神長になったのか、その理由を尋ねてみたところ誰も答えようとはしてくれないので、あえて問い詰めないでおいた。
なんかみんな口笛吹きながらそっぽ向いちゃってるし!
もうこの件に関しては本人に聞くのが一番良さそうだな。
そして。
「自己紹介や質問も終えたところで……カルマさん。今からあなたに人智を超越したといっても過言ではないほどの絶大な運気を注がせてもらいます」
突如として真剣な表情を作り上げたアルテミスが、今回の本題へと話を切り返した。
いよいよ始まるのか。
今から俺の元に神の力が手に入る。
その言葉を聞いただけでは些か不確定要素が拭い切れないでいる。
だが、ようやくこの時がやって来たんだ。
「さてさて、この作業に入るに至ってもう一人、六大女神の存在が必要なのですが」
アルテミスが、そのままゆっくりと言葉を放った後。
彼女の目線の先から、何かがこちらに向かって飛行してくる。
薄紅色をした六枚の羽根を生やして優雅に飛ぶソレは、無事俺たちの目の前へと可憐な姿で降り立ち。
「お待たせしました。六大女神の一人にして、“寵愛の女神エレノア”。今日も皆さんの心に居座らせていただきますね」
絶世の美少女。
それ以外に言葉が出てこないほどに妖艶な女神、エレノアが不敵な笑みをこぼしてそう言った。
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