#008 ツンデレ女神さまと個人レッスンしちゃった! 上
あまりにも唐突な回想で申し訳ないのだが、俺という人間はどうにも不幸体質らしい。
俺の名前はカルマ。
歳は18で、思春期真っ盛りなしがない男魔術師だ。
両親から受け売りの黒髪は、この世界においてかなり普遍的なカテゴリーに属されている。
別に黒髪だからといって魔力やその他の身体能力に何ら影響はないが、俺たち人間は黒い髪の毛=無個性だというあまりにも身勝手な偏見や認識を持っている。
なんともまあ、愚かで下等な種族なのだろう。
もういっその事、種族ごと乗り換えたい気分だ。
――そして。
「ここは……。そうか、おれ、またやられたのか」
先程から走馬灯のように繰り返されていた言葉の数々。
今の俺は、非常にひんやりとした金塊の上で突っ伏している。
「ほんと、大したことないわね」
そんな最中、頭上から聞き覚えのある声がかけられた。
……ウェヌスの声だ。
「次こそは……。もう一回、もう一回だ!」
痛みでうずく脚を無理やりに起こしながら、俺はアルテナ神殿の最深部にある純金の部屋『メシア』で繰り広げられていた事柄を思い出す。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……んで、神様訓練というのは具体的に何か、説明してくれよ」
俺が天界にいる全女神から“変態”というレッテルを貼られた後。
ウェヌスに耳を引っ張られながらも、ここアルテナ神殿の最深部に位置する『メシア』と呼ばれる真の楽園……否、拷問部屋へと連れていかれたのだ。
どうやら彼女が言うには、メシアは訓練を行う場所として最も適しているらしい。
なぜかは深く追及しなかったが、恐らくは部屋の面積が恐ろしく広いことと、どんな粗相をしでかしても全く関係ないといわんばかりの耐久力を誇る純金から構成されているのが主な理由だろう。
そして。
「まずはこれを受け取りなさい」
そう言って片手でポンと、何やら細く短いものを放り出してきたウェヌス。
一体何かと、それを華麗にキャッチした俺は。
「木製の……短剣?」
「そうよ。今からあんたはそれ一本だけで私と戦ってもらうわ」
なるほど。
訓練と言っても、いきなり実践から入るのか。
おもしろいな。
「おいおい、こう見えても俺は超有名且つ、最強ギルドで名高いアファリアに所属してたんだぜ? それも五年間もだ。本当にやりあうつもりか?」
「ええ」
…………。
「いくらウェヌスが女神だろうと、そんなちっこい体で俺に挑もうだなんて見当違いってもんだと思うんだが」
「ええ。それで?」
…………。
「だ、だからさ……せめて武器だけでいいからもうちょっとマシなのにしてくれないか?」
「いやよ。そもそもこの訓練の趣旨はあんたを痛めつけることに意味があるの」
とんでもなく腹立たしい表情で、とんでもないことを言いやがったウェヌス。
そもそも今の俺は。
「ウェヌスは知らないだろうが、今の俺は魔法が使えないんだ。魔術師が魔法なしで、その上なけなしの身体能力なのにこんな玩具みたいな武器をどう扱えと?」
神獣討伐時に無駄に消費しすぎた空欠の魔力、今まで魔術師として生きてきたゆえに鍛えてこなかった身体能力、そして今俺の手元にあるのは。
ふざけてるのかと突っ込みたくなるほどに、あまりにもみすぼらしい木製の短剣が一本。
そしてこの短剣、剣と呼ぶにはあまりにも遠いほどに先端が削られておらず、もうただの木だ。
さてと、どうしたものか。
「そんなの知らないわよ。でもね、今のままのあんたじゃ、神様になんて到底成れはしないわよ?」
「それじゃ、どうすればいいんだよ……」
俺はあまりにも不条理な現実に、地を眺めるしかなかった。
「その“どうすればいいか”を“どうにかする”のがあんたの使命よ」
そう簡単に言うけど、今の俺には何もないんだよ。
無知無能、そして無力な俺は……どうすることも。
「……一つだけ助言を与えてあげる」
助言。
彼女はそう言った。
「あんたは神様になるって一概に言うけどね、神様って……結構地味なのよ?」
「……どういうことだ?」
神が地味だって?
そんなものハッタリだ。
この世で最も偉く、そして尊き存在だぞ?
「……と、その前に。今からあんたには、心を強くしてもらうわ。今のあんたの心は不幸の源そのものよ。過去に辛い出来事があったのかは知らないけど、そのままだといつまで経っても神様にはなれない」
「まず先に、神が地味だという理由を教えてくれ。気になって気になって仕方がないんだ」
心を強くする。
そう言われてもイマイチぴんとこない。
「それは私があんたを認めた時に教えてあげるわ」
「なんだよそれ」
そしてウェヌスが再び口を開いて。
「まずは心を、心の許容量を広くさなさい。じゃないと、たとえ果てのない無限の幸福を与えたところで、あんたはそれに耐えきれない。内側から崩壊しちゃうわ」
「なるほど……。大体理解はできたぞ」
つまりは。
メシアに来る前にアルテミスが呟いていた、『一人の人間にたくさんの運気を与える予定』というこれから起きる事柄に耐えれるように……たくさんの運気が俺の体を受け付けてくれるように神様訓練が行われているということか。
そしてその訓練の内容は俺自身の心のキャパシティーを増幅させること、だ。
「理解が……速いか遅いかはともかく、これで訓練に望めそうね」
ウェヌスが多少の皮肉を交えてそう言った刹那。
「――――」
彼女は何の合図もなく、物凄い速度で突っ込んできた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
そして時は現在に至る。
ウェヌスの凄まじい速度に対応出来なかった俺は、そのままズルズルと負けを重ね続けて。
ある一つの疑問を浮かべた。
――実際のところ、神ってどういうものなんだ?
先の全く見えない望みを、それでも叶えようとしていた意志が……今の俺には欠け始めていた。
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