S→←G
獺野志代
晴れない
毎週木曜日はいつも委員会で遅れてしまう。しかし、今日はいつもより更に時間がかかってしまい、時計を見るともう既に6時17分だった。外は薄暗く、気温も低めで少し肌寒い。そのうえ、畳み掛けるように
「どうぞ。」と写真スタジオのおじさんは、私にコーヒーを出してくれた。私は「ありがとうございます。」と礼を言って、コーヒーを一口飲んだ。おじさんから借りたタオルで頭と制服を拭きながら、スマホで天気予報を確かめた。この雨は19時には止むらしい。あと大体23分くらいか。「それにしても」と、外を眺めながらおじさんが口を開いた。「最近はずっと雨の日が続いて困るね。学生さんなんか特にそうだろう。」まだ残っているコーヒーを啜りながら頷いた。「そうですね。今日の通り雨も含めれば確か11日連続の雨でしたっけ。たまったもんじゃないですよ。ほら、見てください。委員会のプリント類ぜーんぶびしょびしょ!」ぐしゃっと局所的に濡れた書類を取り出して、おじさんに見せた。強調するように、私は項垂れる仕草をして、嘆いた。でも実際は、もうちょっと萎えている。おじさんは私に同情して、今後濡らさないように、とクリアファイルをくれた。ちなみに私もクリアファイルは持っていたのです。はっとして、自分の間抜けさにほとほと呆れた。濡れた書類を見つめながら、寒さとは違う震えを感じた。そういえば、とコーヒーの最後の一口を口に運ぶ前に切り出す。おじさんに「お店閉まってるのに開けさせてしまってすみません。」ぺこりと頭を下げる。おじさんは「気にしなくていいよ。」と、笑った。人に親切にしてもらえると、どことなく罪悪感を感じてしまう。人間のよくないところだ。最後の一口を啜った時、なんだか少し苦く感じた。
しばらくおじさんと談笑しているうちに、雨の勢いは弱まって、すっかり雨は止んだようだった。
「あっ、晴れた!」
私は嬉しくなって、空に向けてそう指差して言った。
雲に覆われて、星の見えない夜空に向けて。
これは、晴れという概念を失った、終わりの世界の話。
S→←G 獺野志代 @cosy
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