巡り勇者

リーマン一号

王道勇者

そうして俺は魔王の脅威から世界を救い、共に戦ってきた仲間に懺悔した。


「勇者様、どうしたんですか?今更伝えたいことがあるだなんて?」


「ああ。一緒に戦ってきた仲間にだけは伝えておこうと思ってさ、俺は実は異世界から来たんだ」


「・・・どういうことですか?」



・・・



俺は読んでいた長ったらしいタイトルのライトノベルを閉じて、世を憂いた。


「・・・はぁ。またまたまたまた、異世界転生物ですか」


何かヒット商品が出ればそれに続くのが世の常とはいえ、ここまであからさまに同じような境遇の人間が同じように異世界へと転生され、同じようにチート能力を有し、同じように世界を救っていては流石にお腹いっぱいである。


本を本棚へと戻すと、再び掘り出し物を求めて物色を始めるが、ふと、何も書いてない本があることに気が付いた。


「なんだこれ?」


タイトルも出版社も本文もそしてあろうことか値段すら書いてない。


「印刷ミスかな?」


何も書いてない本が陳列しているのはまずいだろう、そう考え小脇に抱えて店員を探そうとすると、俺は草原に居た。


「え?なんだこれ?どうなってんの?」


慌てふためく声が草原を劈き、木霊となって帰ってくる。


そこから先は皆の知る限りだ。


這う這うの体でこの世界の首都へとたどり着いた俺は、周りからは勇者だ勇者だと担ぎあげられ、こうして実際に魔王を退治するに至ったのだ・・・



・・・



「本当にそんなことがあったんですね・・・」


さっきから話を聞いていた仲間は慎重にうなずいた。


「信じてくれるのか・・・?」


「当り前じゃないですか!今まで一緒に戦ってきた仲間でしょう?仲間のことは絶対に信じる。あなたの言葉じゃないですか」


目じりに雫がたまり、俺は素直に「ありがとう」と伝えた。


「でも、やっぱり勇者様は元の世界に戻りたいんですよね・・・?」


「いや!そんなことは無いんだ!この世界に来てからいろんな人と出会っていろんなことを体験した。もはやここが俺の本当の世界だと思っている」


「本当ですか!?よかったです!勇者様に会えなくなるなんて考えられませんから!でも、それならなぜ今になって告白を?」


「それは一緒に頑張ってきた仲間に俺の出生を伝えられない後ろめたさがあったのと、さっきからずっと違和感みたいなものを感じていて不安になったのからさ」


「違和感・・・ですか?」


「ああ。今に始まった話ではないんだけど、既視感というかなんというか前にも一度聞いたことがあるような、見たことあるような、そんな感覚がずっと続いているんだ」


「デジャブという奴でしょうか?」


「いや、なんだかそれとも違う気がするんだ。実際に体験したわけじゃなくてどこかで読んだこ・・・」




俺は読んでいた長ったらしいタイトルのライトノベルを閉じて、世を憂いた。


「・・・はぁ。またまたまたまた、異世界転生物ですか」







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巡り勇者 リーマン一号 @abouther

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