第4話 精神錯乱と認知症

 後藤のおじさんは翌朝救急車で病院に運ばれた。精神科だった。ビールの空き缶を抱えて何かわからない事を叫んでいたらしい。体に怪我はなかった。


 あの時見えた巨大な影は何だったのだろう。その影にかじられてキチガイになってしまったんだろうか。僕にはわからないんだけど、あの家でキチガイになった人が二人になったのは事実なんだ。


 僕は学校に行ったんだけど、昨夜の事が頭に焼き付いていて授業が身に入らなかった。寝不足だったこともあり体育の時に倒れてしまった。それで早退した。


 ぼーっとしていたんだと思う。回り道すればよかったのにその家の前に来てしまった。


「やあ拓馬君。顔色が悪いね。大丈夫?」


「気分が悪いから早退したんだ」


 なるべく平静を装って返事をする。


「そう、体には気を付けないとね。お大事に」


「さよなら」


 僕は怖かった。あのままあそこにいたらどうにかなってしまいそうだった。でも、竜一君はうまく解放してくれたみたいだった。


 その日の夜も僕は寝付けずにいた。見てはいけない気がしたんだけど窓を開けてその家を見た。


 背の低いおばさんが悲鳴を上げていた。


 両手にゴミの詰まったコンビニ袋を下げていたんだ。そして黒い巨大な影がおばさんに噛みついていた。

 

 翌日の朝、そのおばさんは認知症の徘徊として保護された。

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