第42話 オアシスに降り立つ救世主

 マニちゃんの案内で一路オアシスを目指す。途中遭遇する魔物はアグニとインドラが瞬殺していた。

 ただ、その素材をベルグとポーラが欲しがるので、その度に解体に時間が取られたけど。


 砂漠に棲む魔物を難なく葬るアグニやインドラを驚愕の表情でマニちゃんが見ていた。

 それも仕方ないのだろう。聞いた所によると、マニちゃん達にとってサンドワームは砂漠の暴君と呼ばれ、襲われれば助かる可能性がゼロに近い絶対者だという。それを僕達は二匹難なく斃している。今もオアシスの戦士が五人は必要なテンセコンドバイパーを瞬殺していた。


「……マニは夢を見ているのでしょうか? 毒を浴びれば10秒で命を失うテンセコンドバイパーが……」

「まぁアグニ達だしね。それに万が一毒をくらってもアグニ達には毒なんて効かないからね」


 マニちゃんにはアグニ達の事は説明してある。最初は怖がっていたマニちゃんだったけど、自分よりもずっと小さなルカが平気なのを見て、怖がるのをやめたみたいだ。



 やがて砂漠の中に唯一のオアシスが見えて来た。


「へぇー、中々大きな湖だね」

「周りの植生も豊かですね。此処なら少数の部族なら暮らせそうです」


 ヴァルナの言うように、緑が濃く湖で漁も出来そうだ。






 私は夢でも見てるのかな。

 砂漠を馬車と馬が普通に走っている。

 そのカラクリは、私を助けてくれたシグさんが、まるで息をするかのように土属性魔法で砂を固めているから。

 私達の部族には、蟲の神印以外のギフトを授かる人は居ないから、属性の神印を持つ人を見た事がないけど、多分これって普通じゃないよね。


 シグさんは、オアシスの集落を飛び出した私がサンドワームに襲われているところを助けてくれた。

 集落の皆んなに言っても信じてもらえないかもしれない。それくらいサンドワームは私達にとって怖ろしい魔物だから。


 シグさんは色々と凄い人だった。

 もの凄く強いスケルトンの眷属を三人も従えている。そして、口から火を噴く赤い馬も普通じゃない。

 セレネさんは凄く綺麗な女の人、シグさんの恋人かな? エルフっていう種族だと聞いたわ。ベルグさんとポーラさんはドワーフ、それとあのレイラさんという女の人は、遊牧民族に見える。そして小さくて可愛いルカちゃんは兎人族だって、私もルカちゃんみたいな妹が欲しい。


 砂漠のオアシスから出た事がなかった私は、話では聞いた事があるけど、初めて出会う種族の人と出会えて嬉しかった。


 お姉ちゃんの為に必死に駆けて来た距離を、馬車に乗って戻っている。

 本当にシグさんに会えて良かった。神様ありがとうございます。






 眼前にオアシスが近付いた時、砂地だった地面が、草の生い茂る草原になる。


 湖のほとりに幾つもの高床式の住居が見える。

 僕達の馬車を発見した集落の男が一人走って来る。

 一人でって警戒が緩くないのかな。と思っていると、馬車から身体を乗り出したマニちゃんが男に大きな声で呼び掛けた。


「バッジ! マニです! 熱病を治せる人を連れて来ましたー!」

「お嬢ーー!」


 マニちゃんが馬車から声を掛けたので、少しだけ警戒を緩めた男が近寄って来て馬車を止めるように進路を塞ぐ。

 馭者のアグニが馬車を止めると、馬車の中からマニちゃんが飛び出した。


「マニお嬢! ご無事でしたか!」

「バッジ! そんな事より皆んなの熱病を治してくれる人を連れて来ました! お姉ちゃんは大丈夫ですか!」

「……この砂漠を馬車で?」


 マニちゃんにバッジと呼ばれたゴリゴリの筋肉の塊の男が、僕達を見て警戒の姿勢をとる。それも仕方がないとは思う。砂漠を馬が走るとは、ましてや馬車を引いた馬がまともに前に進めるなんて思わないのが普通だ。


「バッジ、シグさんに武器を向けないで! シグさんごめんなさい! お姉ちゃんは、こっちです!」


 マニちゃんは馬車から飛び降りると駆け出した。バッジという男も納得していないようだけど、道を開けてくれた。


 走るマニちゃんが駆け込んだのは、オアシスに建つ建物の中でも一番大きな家だった。


「シグさん! 早くお姉ちゃんを! あっ、嘘! お父さんまで熱病に!」


 マニちゃんに手を引かれて家の中に入ると、そこに僕より少し年上の綺麗な女の人が高熱にうなされ寝ていた。その横にはマニちゃんとその女の人の父親らしき人も横になっている。


 僕は病状の重そうな女の人から治療する為、左手をかざしてウロボロスの聖なる力を解き放つ。


 女の人の身体を治癒の力が覆い、身体の中へと溶け込むと、荒く苦しげな息遣いと、その苦しそうだった表情が穏やかに変わる。


「うん、大丈夫みたいだね。次は隣の男の人だね」


 僕は続けてお父さんらしき隣の男の人にも治癒の魔法をかける。


「嗚呼、お姉ちゃん。シグさん、ありがとうございます」


 お姉さんとお父さんが回復したのを確認したマニちゃんが、僕の手を取り涙を流してお礼を何度も何度も言ってくる。僕としては、少しの魔力を使って回復魔法を使っただけで、こんなに大袈裟に感謝されると返って困惑してしまう。


 そこに集落の入り口で僕達を出迎えたバッジという男がやっと追いついた。


「お嬢、族長とフロルお嬢は?」

「バッジ、お姉ちゃんもお父さんもシグさんが魔法で治してくれたのよ!」

「おおぉぉ! 感謝します旅のお人!」


 バッジという男が跪いて僕を拝むように感謝してくれるけど、拝むのはやめてほしい。


「それよりもマニちゃん、集落の他の病人の所に案内してくれるかな」

「はっ、そ、そうだ! シグさん、マニが案内します!」

「お嬢、俺はまだ自分で動ける奴等を集会所に集めるから、お嬢は動けない重病の患者を頼む!」


 バッジはそう言うと族長の家を飛び出して行った。


「行こうマニちゃん」

「はい!」


 大きな集落じゃないみたいだし、全員を治癒しても魔力は余裕だろう。僕はマニちゃんに案内されて、重病の人の家を周った。




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