ロック&バナナ

月浦賞人

プロローグ

――酷い光景だった。

 真っ青な空と燦々と輝く太陽。人を陽気にさせる空の下には、真っ赤なゴミが一面に捨てられていた。

 何にもならない、肉の塊。

 人が快適に住むために整えられた都市の中では、そこを汚すのもやはり人だった。

 輪切りにされ、ピンク色の内臓を広げる男。頭半分にスクリューを当てられたような女。圧縮され、穴から血を噴き出した子ども。四肢を失い、荒い呼吸で死を待つ男――。そんなものが、ここに来るまでの間、何百、何千と置いてあった。

 長いこと走ってきた。そして遂に、その光景の終わりを目に収める。追ってきた現場の先端に、ようやく辿り着いた。

 視界の先には、超常の存在が二つ、地を駆け、空を飛び回っていた。鮮やかな金色の炎が舞い、不自然な突風がここまで届いて頬を撫でる。

 戦っている姿は初めて見る。その動きも、異能も、とても人間がなせる業ではなかった。

 すぐにビルの陰へ隠れた。裏を回って距離を詰める。外壁から顔を出すと、その瞬間、熱波が吹いて顔を熱した。もう、ほど近い距離。見つからないように息を殺し、状況を確認する。

 すると一人、いるべき人の姿が見当たらなかった。

 どこにいるのか。現場に痕跡はある。いることは確実だけれど、その姿が見えなかった。

 もう一度、ビル陰から顔を出す。

 探してみるけれど、やはり、目のつくところには今戦っている二人の姿しか見えなかった。あとは、ここまで見てきたような死体が転がるばかりだ。

 ふと、その死体の一つに、目が止まった。何故かは分からないけれど、惹きつけられるものがあった。

 バラバラにされたものが適当に纏められている。鳩の死体が頭に浮かんだ。地面に吸い付いて、羽毛が風で煽られている鳩の死体。鮮血で染まる赤の上で、白のフリル地が風に揺れているその様が、とてもよく似ていた。

 

 それを、確認しなければならなかった。

 だって、それがなら、来た意味が無くなってしまうから。

 隠れていたって、何の意味もないから。

 足は答えを知っているかの様にゆっくり動いて、その死体の前に立たせる。

 既視感のある布。中身は六つに分けられていて、血を地面に零している。マネキンより生気のない顔は、既知の存在と重なった。

 ストンと、綺麗に纏まった認識が降りる。

 感情の直前に、胸の奥が細くなった。


「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 戦場で上がる悲鳴に、二人の生者がそちらを見た。一人は瞠目する。そしてもう一人は――


――ニタリと、狡猾な笑みを刻んだ。

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