ねがい

勝利だギューちゃん

第1話

親と言うものは、世間体を気にするものだ。

どうあっても、子供に結婚させたがる。

そうさせないと、世間様に恥ずかしくて顔向けが出来ないようだ。

立て続けに、お見合いの話をもってくる。



それが。親だけならいいのだが、近所のおせっかいなおばさん。

同じく、おせっかいな親戚。

挙句には、会社の上司まで、お見合い話しを持ってくる。



その全てが、「自分の顔をつぶすな」というのが、大抵の理由だ。

(俺は、てめえらのおもちゃでも道具でもないんだ)

内心は怒りに震えながら、抑えている。



僕は、結婚したくないので、その話は全て無視をし、断ってきている。

お見合いをさせられたとしても、自ら振られるように持っていく。


振られるのはいたって、簡単。ありのままの自分をさらけ出す。

そうすれば、即破断になる。


断っておくが、俺が結婚したくないのは、同性愛者だからではない。


しかし、神様というのは実に惨酷だ。

ある日、俺が(いやいやながら)お見合いをした相手の女性・・・

それは、高校時代に付き合っていて、別れた彼女だった。


振ったのは彼女のほうだ。その理由は、「○○くんのほうが、あんたよりかっこいいから」だった。

俺の告白をOKしたのは、単なる暇つぶしだったのだ。

(魅力のない自分が悪いんだ)

そう自分に言い聞かせ、彼女の物は全て処分した。


俺が結婚しないできたのは、これがトラウマとなっているためだ。


うしろめたさがあったのか、彼女は何も話さないでいた。

「お元気そうですね」

俺は敬語で話した。まあ、それが常識だろう・・・

「・・・うん・・・」

それっきり彼女は下を向いたままだった。


「彼氏は元気ですか?」と訊こうとしてが口にはしなかった。

元気なら、今も付き合っているのなら、お見合いはしないだろう・・・

そう判断し、何も話さなかった。


本来ならこちらから話すべきだろう。

しかし、下手に話すことは、彼女に申し訳ない気がした・・・


そして、会話をしないまま、お見合いの時間は終わった。

(ようやく解放された)

俺は大きく伸びをして、その場から去った。

そしてわかった。「こんなことだから、彼女が出来なかったんだな」と・・・

でも、不思議とすがすがしかった。



それから、数十年がたった。

あのお見合い以降、さすがにあきらめたのか、あきれられたのか、お見合いの話は来なくなった。


俺は、若い頃からの夢であった、自然の中への移住をしている。

そこで、ペンションを建てて、動物や鳥たちに囲まれて、静かに暮らしている。

俺はここで、余生をおくるつもりだ・・・


若い頃に夢見たことは、殆どが今、現実のものとなっている。

俺は、幸せだ・・・


その後、あの女がどうなったのかは知らない。


でも、俺には関係ない。

俺は今の、この幸せな一時を大切にしたい。


なにしろ、俺には自然という大事な友がいる。

それだけで、満たされている。

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ねがい 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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