第388話 私はナラ・その6
さて、
例の『脱走中』の後、あの四人にはチームでの出演依頼が相次いだ。
単品で使うよりまとめて使ったほうがおもしろいという判断だろう。
私でもそう思う。
けれどエイヴァンたちにとってはめちゃくちゃ迷惑なわけで、「仕事をさせろ」「船に乗せろ」「学生やらせろ」と詰め寄った末、広報活動は後二回だけと言う確約を取った。
二人とも仕事大好き人間だからねえ。
広報としては今の人気に乗っかって優秀な人材ゲット、好感度アップを狙いたいところ。
ここはガンガン攻めたいわねと言ったら、エイヴァンに「お前は誰の味方だ ! 」と睨まれた。
いやだわ。単に同業者としての責任のない感想よ。
で、さすが仕事の手を抜かない広報の
夏休みに突っ込んできましたよ、巨大アスレチックゲームの『
三人の服装はもちろん執事服、ではなくて燕尾服。
ルーちゃんの衣装はいかにもな冒険者風。
ああいう番組ってアパレル会社から衣装提供されるから、よほどの大物でもない限り出演者は文句を言わず着なくちゃならない。
「今回は動きやすいように社交ダンス用のものを用意しました。フルオーダーにしたかったのですが、予算が足らなくて。でも、普通の服よりは動きを妨げないはずです」
吊るしとは言え前日にお直しが入ったので、きっちり彼らの体に合わせてある。
三人が画面に現れると、お店の中が黄色い悲鳴で一杯になった。
「すごい人気ねえ。なんだか妬けちゃうわ」
「あら、それだけ ? 」
あの番組を私とフロラシーは知り合いのスポーツバルの大画面で見ていた。
普通こういう店の映像はバスケとか
あら、店内の皆さん結構楽しんでいるみたい。
どよめきやら歓声やらすごい。
「だって嬉しいじゃない。皆がキャーキャー言ってるのは私の未来の旦那よ。できれば大声で叫びたいわ」
「やめなさい。新人勧誘の邪魔になるから」
とは言え、私だって嫌な気はしない。
春のアレを見た親戚一同及び門下生が一気にエイヴァンのファンになってしまった。
どうしたらあんな動きが出来るのかと検証する人まで現れた。
早く彼を連れてこいと言う声も多い。
今日のこれもきっと実家の道場で盛り上がっているに違いない。
今回は四人とも三回戦まではギリギリのクリア。
ファイナルでは全員ぶっちぎりでの余裕の完全制覇で、他の参加者に「もう来るなぁぁっ ! 」と叫ばれていた。
再びの出禁。
まあ、仕方ないか。
バルのオーナーからは「盛り上がっていつもより売り上げが上がった」とお支払いを免除してもらった。
ただ酒、美味しい。
◎
二回目の広報活動。
それは『脱走中』の収録直後から始まった。
エイヴァンとディードリッヒが売り飛ばされた先は、まさかの『岸真理子記念バレエ団』。
そう、例の、あそこ。
「お二人には新人公演で悪魔ロットバルドを演じていただきます」
演目は『白鳥の湖』。
四日間の公演のうち一日の昼と夜を頼みたいと。
岸百合子先生はサラリととんでもないことを言った。
「・・・私たちは基礎訓練こそ受けていますが、ずぶの素人です。そんな大役はお受け致しかねます」
「大丈夫。本番まで半年以上ありますから。毎日それだけを練習すればなんとかなります」
「なりません」
「なります」
「なりませんってば ! 」
「なります。昔のドヘタなアイドルが、持ち歌がどんどん上手くなったのは、毎日それだけしか歌っていなかったからです。愚直なまでに持ち歌しか歌わなかった。あなた達も同じです。とにかく振りを叩き込んで、後は練習あるのみです。演技だとかは後付けで十分です。基礎はしっかり出来ているのですから、楽しいお祭りだと思って頑張って取り組みましょう」
人寄せパンダにその他大勢なんてさせない。
しっかりと目立って撒き餌になってもらう。
さすがお方様のお嬢様。
問答無用なところが良く似ている。
それにしても、何故こんなことになったんだろうか。
「あら、
「
あの二人、踊れるわよ。
「どこまでも余計なことを・・・ ! 」
「これからは毎朝のお稽古に振り写しを加えますよ。よろしいわね ? 」
と言ってもその後すぐに西の大陸に向かったから、無事にお方様の魔の手からは逃れられた。
かと思ったら四神獣の力でリモートレッスン。
ぶつくさ言いながらもちゃんとお稽古するなんて、この四人どこまで真面目なんだろう。
そんなこんなでやり終えた本番。
立見席まで出て百合子先生は笑いが止まらない。
仕事と稽古と結婚準備で休む暇もなかった悪魔たちはゲッソリしていた。
◎
結婚式は合同になった。
忙しすぎたのと招待客がダブってるっていうのもある。
同じ人に二度も集まってもらうより、一度で全部済ませた方が楽だろうと言ったら、どちらの親族も快く承諾してくれた。
かなりの大人数になったし準備も大変だったけど、そこはほら、私の専門だもの。
ドレスはフロラシー主導で満足いくものになったけど、たった一つ大失敗したことがある。
あの二人の衣装だ。
一種夏服と言われる白の詰襟。
ええ、もう凄くカッコよかったわよ。
あれ着てるだけで五割り増しハンサムだって言われてるもの。
帽子を被ったら顔が隠れてさらに二割増しとか。
私たち花嫁を無視して、家族まで二人と一緒に写真を撮っていた。
式場のカメラマンもどう見ても花嫁より花婿に重点を置いていたわね。
あとルーちゃんたち。
あの子たちも目立ってたわね。 『目立たない』魔法を使ってたみたいだけど、あれって最初から注目されていたらあまり効果がないみたい。
ただあの二人のおかげで披露宴名物の余興をしようとする人がいなかったのは助かった。
でもやはり主役はエイヴァンとディードリッヒに持っていかれたのは否めなくて、やさぐれた私とフロラシーは、本来四人いるはずの高砂で手酌でワインを酌み交わした。
だから会場予約の関係で結婚記念日が『真珠湾攻撃』の日になっちゃったくらい許してくれてもいいと思うの。
「十二月八日は『無原罪の聖母マリア』の祝日ですよ」
ってルーちゃんは言うけれど、私んち神道だもんね。
ついでに半分神様だからね。
それにこの日だったら絶対忘れず毎年祝ってくれると思わない ?
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