第383話 私はナラ・その1

 私はナラ。

 正式にはナラリア・シーノ・スケルシュ伯爵夫人だ。

 元々はダルヴィマール侯爵家の侍女で、養女になられたルチア姫の筆頭専属侍女だった。

 それが婚約者が突然高位貴族の仲間入りをしたおかげで仕事をなくした。

 チッ、侍女長まで成り上がるつもりだったのに ! 

 そう、『大崩壊』の後、色々あったのよ。


 近侍が全員高位貴族になるって知って、ルーちゃんが王城にカチコミ、殴り込みをかけた。

 高位貴族の三男とか四男が婿入りしたりとか、低位貴族の次男以下が他家で侍従として働いたりとかはある。

 だけど跡継ぎが侯爵令嬢の侍従っていうのはないわよね。

 当然だけど伯爵家当主がって言うのも。

 悪意しか感じなかったけど、それを止めるには時間も力もなかったの。

 連絡しようにも領都とは距離がある上に、雪のせいで片道三週間はかかる。

 どうしようもなかった。

 だからルーちゃんたちが王都に着いた時にはなにもかも決まっていて、私も侍女のままでいるか婚約解消するかって道しかなかったのよね。

 あら、結婚しないって言う意味ではどっちも同じね。

 まあ、今の生活を変えたくなかったから、あっち現実世界では忘れてたことにしてわざと連絡しなかった。

 念話を覚えてたら知らせてたわと言ったけど、エイヴァンもディードリッヒも信じてない。

 当たり前か。

 あっち現実世界ではちゃんと結婚するんだから、問題ないと思ったんだけどなあ。

 だけど、それを知ったルーちゃんの怒りが凄まじかった。


「手柄を立てた人にご褒美はいいでしょう。でも、なんで貴族に取り立てるんですかっ ! 」


 皇帝陛下の引きこもり部屋でのんびりとお茶をしていた皇帝夫妻と宰相夫妻は、なんでルーちゃんがそんなに怒っているのかわからなかったようだ。


「あれだけの勲功をあげた者に何も与えないというのは出来ないよ。騎士団とかにも報奨は与えてるしね。それに見合うものって言ったら位を上げるくらいしかないんだ。今は予算もつきかけているし」

「だからって、なんで私からみんなを取り上げるんですかっ ! 私の仲間、私の大切な人たちを取り上げて、それって何の意味があるんですかっ ! なんで私だけご褒美じゃなく罰を与えられなきゃいけないんですかっ ! 」


 ポロポロと涙を流すルーちゃんと威圧やら威嚇やら丸出しの近侍たち。

 そんなつもりじゃない、優秀な人材をそのままにはしておけないと説得する皇帝陛下たち。

 正式発布済みで断れない状況にしておいて、てめえら何言ってやがると凄むエイヴァンたち。

 どうにも話が進まない状況についにルーちゃんが切れた。


「わかりました。そういうことでしたら話は簡単です。私、北の大陸に亡命します ! 」


 北の王子と一緒にあちらに渡って戻ってこない宣言をした。

 王子からは一度ぜひ来てほしいと言われているし、噂の海辺のお城もみたいから。

 当然だがエイヴァンたちも着いていくだろう。

 私とフロラシーは・・・どうしよっかな。


「でも、その前に御所を更地にさせていただきます ! 」

「それは止めてくれっ ! 」


 他の人なら無理でも、ルーちゃんには可能だ。

 なんたってまだ半分人間とは言えこの世界の神様の一柱だから。

 そしてもう一柱のアル君は、よほどの事がなければ怒り心頭のルーちゃんを止めないだろう。

 

「選んで下さい。更地にされるか、天変地異を起こされるか」

「なんで破壊の選択しかないんだ ! 」

「私がそう決めたからです ! 」


 なんか文句ある ?!


 ルーちゃんの問答無用の脅しに、皇帝陛下と宰相閣下は渋々と交渉に応じるのだった。

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