第355話 ギルマスの未来
「ギルマスの病気、治させてもらいたいんです」
『大崩壊』後の私たちはどちらの世界でも魔法が使えるようになった。
もちろん私が得意な攻撃用の魔法を使うわけにはいかないので、欠けてしまった駅の階段とかベコッとした道のアスファルトとかを土魔法でコッソリ修理したりしている。
とっても微妙な使い方だけど、それくらいで丁度いいと思っている。
さすがに首都圏で最大火力の地獄の業火を使うわけにはいかない。
それくらいの常識は持っている・・・つもり。
アルは治癒師なので、小児病棟で子供たちの相手をしている。
絵本を読んだり勉強を教えたりしながら、その子たちの自己再生力をアップさせる魔法をかけていた。
「細胞活性なんて魔法を使ったら、悪い細胞とかが元気になっちゃいそうで怖いんだ。だから自分で治す力。それに急に全快したらおかしいじゃない」
あくまで自分で治す力。
病は気からって言うし、それと楽しい気持ちはかなりアルの魔法を後押ししてくれるらしい。
小児科病棟の退院率はここのところ上がっている。
「今の僕なら悪いところは全部治せます」
「・・・ありがとう、アル」
ギルマスはアルの手を握って頭を下げる。
「でも、アルの魔法は必要ない」
「っ、ギルマス ! 」
「私は病気じゃない。私の体はどこにも悪いところはないんだよ」
ギルマスはフフッと笑う。
自分は健康体なのだと。
「普通はこの年まで生きればどこかしらすり減っているものなんだ。だけど私は血液検査をしてもレントゲンを撮っても悪いところが見つからない。学術書に載せたいくらい見事な健康体だそうだよ」
ギルマスは数字持ちになってから、
ただちょっと火とか水とか出せるくらい。
「子供や孫とキャンプやバーベキューをする時くらいしか出番がなかったんだがね」
それでもおじいちゃんは火をつけるのが上手、と孫たちからは尊敬されていたと言う。
そしてもう隠さなくてもいいかと見せたひ孫からは、「じーちゃんの手品すげえっ ! 」と種明かししろと言われたらしい。
そしてギルマスが使える魔法の中に治癒の力もあった。
「多分、意識せずに自分に掛けていたんじゃないかな。そうでないとこの状態は説明できない」
だからね、とギルマスは続ける。
「これは老化、私の死因は老衰だよ。寿命は一年前に尽きているって言われただろう ? 」
「ですけどっ ! 」
アルは悔しそうに唇を噛む。
こちらでは初対面のギルマスの命の火がすでに消えていて、今は残り火が微かに
それでもまだ生きていてほしいと思うのは我儘だろうか。
「二人とも、そんな顔をするんじゃない。今生の別れではないんだ。私の人生は
そんな私たちの気持ちが顔に出ていたのか、ギルマスぽんぽんと私の手を叩く。
「私はね、早く亡くなった妻に会いたかった。すぐに追いかけると約束した仲間にもね。ところがどうだい。彼らは全員とっくの昔に輪廻の輪に入って、新しい人生を送っているというじゃないか。酷い裏切りだ」
私は決めたんだよ、とギルマスは言う。
「今いるベナンダンティ全員、そして直にくる次の新人が輪廻の輪に入るまで、
アハハと笑うギルマスに、私もアルもパックリと開いた口を閉じることができない。
そんな私たちにギルマスは、どうだい、驚いただろうと満足そうな顔をした。
「この春でギルドマスターも辞めるよ。ただの冒険者に現役復帰だ。若い頃に尋ねた街や国にもう一度行ってみたい。行ったことのない場所にも行きたい。私はね、人生をまた楽しむことにしたよ」
「それって、私とアルがしたかったことですよ。ずるい、ギルマスったら先にやっちゃうんですね」
「早い者勝ちだよ。後でルーが行くときのために、詳細なガイドブックを準備しておくよ」
楽しみにしておきなさいと言って、ギルマスは少し離れたところで待機していた男性を呼び寄せた。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます