第353話 文化祭シーズンがやってきた

 さて『大崩壊』の後の現実世界のこと。


 アルの文化祭は無事に終わった。

 何事もなくと言うわけではなく、他校の生徒とかで補導されたのが数名。

 彼女たちはアルのファンだった。

 アルって背が高いし顔はいいし性格は穏やかで頭もいい。

 ついでに大病院のご子息だから、元々狙ってた人は多かったらしい。

 

 ただアルの学校の生徒さんは私たちが付き合ってると思ってたから、とっととアルのことは諦めてくれてた。

 だけど予備校やバレエ公演とかテレビ中継とかでアルのことを知った人たちはそうじゃなかった。

 夏休み中から予備校とか登下校とかで絡まれてたのは聞いている。


「今が一番大切な時なのに、お茶とか映画とか行けるわけがないじゃない」


 すごく迷惑そうなアルだけど、ここで『大崩壊』の時に手に入れた神格がものを言った。

 私たち、神様なのでこちら現実世界でも魔法が使えるようになりました。

 と言うわけで学校と家とバレエ団以外では『目立たない』魔法で逃げ回っている。

 ところが彼女たちは諦めなかった。

 出入り自由の文化祭でアルに会いに行ったら隣には私がいて、事情を知っているクラスメートがしっかりガードして接触させなかった。

 その嫉妬から実力行使。

 帰ろうとする私を校舎内の踊り場で捕まえることに成功。


「同じバレエ団だからって生意気なのよ」

「踊るしか能がない癖にまとわりついて、あんた何様なのよ」


 そして彼女たちは私を階段から突き落とした。

 テレビ・クルーの見ている前で。

 次回のドキュメンタリー番組のために、アルと私の日常生活を撮影してたんだよね。

 出来るだけ自然な生活を撮るために少し離れた場所にいたんだけど、私を囲むところから罵声も含めて全部記録に残ってしまった。

 おまけに文化祭を見に来ていた人たちにもバッチリ見られて、善意の第三者集団によって身柄を確保。

 ちょっと話を聞かせてねとご近所の交番に連れていかれた。

 ホント、なんで文化祭なんて人が一杯いるところでこんなことしたんだろう。

 舞い上がって自分たちの周りが見えなかったのかな。

 怪我 ?

 体力オバケの私がするはずがない。

 うまく頭をかばって受け身をとったから軽い打ち身だけですんだ。

 けれど傍から見れば殺されかけたようにしか見えなかったようで、この出来事はあっという間にネットで拡散された。


『トゥシューズに画鋲事件』の美少女バレリーナ。今度は命を狙われる。


 確かに下手をすれば命がなかったわけだけど、殺意はなかったわけだから穏便に済ませてほしいと弁護士さんにお願いしておいた。

 あの年で前科持ちとか悲しいでしょう。

 反省してくれればいいけどな。

 いじめ、ダメ、絶対。

 悪いのはした奴。

 された人じゃない。


 アルの文化祭から遅れること一月。

 次は私の学院祭だ。

 例によって今年も踊ってほしいと依頼があった。

 一年の時は『エスメラルダ』。

 二年では『キトリ』。

 最後になる今年、私が選んだのは『瀕死の白鳥』だ。


『大崩壊』では少なくない命が奪われた。

 その魂はすでに輪廻の輪に入って生まれ変わっているそうだけれど、それはそれとして鎮魂の意味も込めて踊りたかった。

 あちら夢の世界でお母様にビシバシしごかれたけど。


 入場券はアルのご両親とベナンダンティ仲間のルゥガさんのご家族にお送りした。

 私の家族は例によって出港中で断られた。

 ヴァルル帝国初代皇帝ハル兄様の妹さんは、今は私のドキュメンタリー班に移動しているから撮影のために来てくれた。

 バレエ関係で弁護士を手配してくれた某大企業の会長さんにも、アルのお父様を介してお届けした。

 お忙しい方だからお越しいただけないかもしれないけど、こういうのは気持ちだと思う。


 そんなこんなで、悪夢のインフルエンザから十日ほど。

 やっと外出許可の出た私に、アルのご両親から会って欲しい人がいると言われた。

 アルと二人でと言われ案内されたのは隣接する病院。

 入院中の子供たちの遊び相手に行ったことはあったけど、今日は最上階の特別室と呼ばれる個室だ。

 

「やあ、よく来てくれたね」


 ベッドに横たわるその人は私たちが部屋に入ると楽しそうに声をかけてきた。

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